あなたs.
夜は、音が少なかった。
壁の外の風も、兵舎の廊下の足音も、
今日はやけに遠い。
泣いた跡が、まだ喉の奥に残っている。
声を出せば、また崩れてしまいそうで、
私は何も言えずに立っていた。
エルヴィンさんの声は、いつも通り落ち着いている。
なのに、どこか掠れて聞こえた。
“駒”という言葉に、反射的に身構える。
でも、彼はそこで一歩だけ近づいた。
近すぎない。
触れない距離。
――縋るみたいな、距離。
頭が、ついてこない。
調査兵団団長の口から出る言葉じゃない。
いつも、誰よりも“覚悟している人”のはずなのに。
淡々と並べられる言葉のひとつひとつが、重い。
言葉が、出ない。
否定も、怒りも、拒絶も。
ただ、分かってしまった。
優しい声だった。
だからこそ、残酷だった。
逃げ道が、ない。
リヴァイは――
私を連れて行こうとした。
力で、世界から引き剥がそうとしてくれた。
この人は、違う。
私の手を取って、世界の重さを一緒に背負こうとする。
どちらも、愛だった。
分かってしまうからこそ、選べない。
私は気づく。
この人は、私が拒めば、きっと微笑む。
「分かった」と言って、身を引く。
その後で――
世界は、彼の望む形で動く。
リヴァイは、守れなかった現実を抱えて生きる。
それが、見えてしまった。
エルヴィンさんは、何も言わなかった。
ただ、ゆっくりと息を吐いて。
その言葉が、
褒め言葉にも、呪いにも聞こえて。
私は俯いたまま、指先を強く握りしめた。
この夜が、
もう戻れない一線だと、分かりながら。














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。