あなたs.
夜は、驚くほど静かだった。
祝宴の灯りが消え、
人の気配が遠ざかって、
与えられた部屋の扉が閉まった瞬間、
ようやく息ができた気がした。
白いドレスが、重い。
綺麗で、正しくて、逃げ場のない色。
脱がなきゃ、と思うのに。
指が、動かない。
そのまま床に座り込んで、
背中を扉に預けた瞬間――
堪えていたものが、全部、落ちた。
声を出さないつもりだった。
でも、無理だった。
涙が止まらない。
息が、うまく吸えない。
――目が、合った。
ホールの端。
走ってきた、リヴァイ。
あの人が、そこにいるって分かった瞬間、
全部を投げ出して呼びたくなった。
でも、泣けなかった。
泣いたら、あの人が壊れるって分かったから。
床に落ちる涙に向かって、呟く。
私が、選んだ。
そうするしか、なかった。
でもそれは、
愛してるから、だった。
ノックの音がした。
エルヴィンさんの声。
慌てて涙を拭こうとして、
でも、もう遅かった。
扉が開く。
エルヴィンさんは、部屋に入っても
距離を保ったまま立っていた。
私を、婚約者としてじゃなく、
選ばされた人間として見ている距離。
しばらく、沈黙。
私は、ドレスの裾を握りしめながら、言った。
喉が詰まる。
言葉にならなくて、顔を覆った。
自分に言い聞かせるみたいに。
エルヴィンさんは、何も言わなかった。
慰めなかった。
触れなかった。
それが、優しさだと分かっていたから、
余計に、苦しかった。
白いドレスに、涙が滲む。
誰にも見せない夜。
誰にも救われない夜。
――世界より、あなたを選びたかった。
その言葉を、
私は胸の奥に、押し込んだまま。
夜は、静かに、更けていった。














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。