第4話

期待したくない
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2026/04/19 10:27 更新

帰り道の空は、少し暗くなり始めていた。
「……で?」
隣を歩く湊が、ちらっとこっちを見る。
「何が」
新は視線を前に向けたまま答える。
「“何が”じゃないでしょ。今日、影山くんと何かあった顔してる」
即バレる。
「別に」
「嘘つくの下手すぎ」
ため息まじりに言われる。
しばらく沈黙が続く。
(言わなくてもいいのに)
そう思うのに。
「……ちょっとだけ」
気づいたら口を開いていた。
「うん」
湊は急かさない。
「距離、近くて」
「うん」
「それで、俺が、近いですって言ったら」
言葉が詰まる。
思い出すだけで、胸がざわつく。
「……すぐ離れて、謝られた」
「ちゃんとしてる人だね」
湊の返事は落ち着いていた。
「……うん」
それが、余計に苦しい。
「嫌だった?」
「違う」
即答してしまう。
湊が少しだけこっちを見る。
「……じゃあ、何がそんな顔させてるの」
新は黙る。
うまく言葉にできない。
(嬉しかった)
(でも、それ以上に――)
「……期待したくない」
ぽつりと落ちる。
自分でも、驚くくらい素直な言葉だった。
湊は何も言わない。
ただ、隣を歩く速度を少しだけ合わせる。
「優しいから」
新は続ける。
「誰にでもああなんじゃないかって思うと」
足が止まりそうになる。
「勘違いしたら、怖い」
湊が、小さく息を吐く。
「新」
名前を呼ばれる。
「それでもさ」
少しだけ、優しい声。
「好きなんでしょ」
「……うん」
否定できない。
「じゃあ、ゼロにする必要なくない?」
「でも」
「傷つくの怖いのは分かるよ」
言葉を遮られる。
「でも、今のままだとさ」
少しだけ真面目なトーンになる。
「勝手に期待して、勝手に落ち込むやつになるよ」
痛いところを突かれる。
「……それはもう、なってる」
小さく言う。
湊が苦笑する。
「知ってる」
「じゃあどうすればいいの」
「んー」
少し考える仕草。
「ちゃんと見ればいいんじゃない?」
「何を」
「相手」
シンプルな答え。
「影山くんがどういう気持ちで新に接してるか」
「……分かんないよ」
「分かるよ」
湊はあっさり言う。
「だって新、めちゃくちゃ見てるじゃん」
言い返せない。
「その上で、それでも好きなら」
少しだけ、声が柔らかくなる。
「そのとき考えればいい」
「……雑」
「でも本質」
くすっと笑う。
「あとさ」
ふっと視線を逸らしてから、戻す。
「無理して距離取るのはやめなよ」
「え」
「さっきの話聞く限り、向こうも気にしてるじゃん」
影山くんの顔が浮かぶ。
「……そうかな」
「そうだよ」
即答だった。
「少なくとも、どうでもいい相手にあそこまでしない」
少しだけ、気持ちが軽くなる。
「……湊ってさ」
「なに」
「なんでそんな分かるの」
湊は少しだけ黙って、それから笑う。
「いつも見てるからね」
「なにそれ」
新も少しだけ笑う。
でも、そのあと。
「……無理すんなよ」
ぽつりと落ちる声。
さっきより、少しだけ低い。
「傷つくの、見るのは嫌だから」
新は一瞬、言葉を失う。
それから、小さく頷いた。
「……うん」
完全には守れない約束だと思いながら。
それでも。
「ありがと」
そう言うと、湊は軽く肩をすくめた。
「どういたしまして」

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