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第1話

雨音
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2026/07/11 04:48 更新







雨だった。

窓ガラスを叩く雨粒が、教室の静けさを何度も壊していく。











放課後。

誰もいなくなった三年A組には、二人だけが残っていた。

黒板には消し忘れた数式。

机には開きっぱなしの参考書。


そして、窓際で雨を眺めるサクヤ。

リョウは後ろの席で頬杖をつきながら、その背中を見ていた。




ryo『……また雨。』



sakuya「梅雨だからな。」



ryo『お前、雨の日好きだよね。』




サクヤは少し笑う。




sakuya「嫌いじゃない。」



ryo『昔もそうだった。』



sakuya「覚えてるの?」



ryo『当たり前。』








雨だけが教室を満たしていた。

サクヤは窓ガラスに触れる。

その指先には、小さな擦り傷がいくつもあった。

リョウは気づいたが、何も言わない。





どうせ聞いても、 「転んだ。」 そう答えるだけだから。























ryo『今日も寮で飯?』



sakuya「ん。」



ryo『食堂のカレーらしいよ。』



sakuya「……そう。」




返事が遅かった。

ほんの一瞬だけ。

まるで何かを考えていたように。










教室の時計が午後五時を告げる。

その音だけがやけに大きく聞こえた。

サクヤは時計を見上げる。

ほんの少しだけ眉をひそめた。




ryo『どうした?』



sakuya「……いや。」




それだけだった。












リョウは机の上に置かれた寮の鍵を手に取る。

二人とも、同じ階。

部屋もすぐ近く。

幼稚園からずっと一緒。





「腐れ縁。」 と言われるほど長い付き合いだった。




ryo『なあ。』



sakuya「?」



ryo『来年さ。大学別々になっても、たまには遊ぼうな。』




サクヤは少しだけ目を伏せる。

それから笑った。

でも、その笑顔はどこかぎこちなかった。





sakuya「……来年のことなんて分かんねぇよ。」



ryo『珍しいこと言うじゃん。』



sakuya「未来なんて、急に変わるから。」





その言葉は、雨音に溶けた。













リョウはふと窓の外を見る。

校庭の隅に傘も差さず立っている男子生徒が一人。

こちらを見ているようにも見えた。


瞬きをした次の瞬間には、もう誰もいなかった。




ryo『……今、誰かいた?』



sakuya「どこに?」



ryo『いや……気のせいか。』




サクヤは窓の外を見なかった。




いや、見ようともしなかった。























荷物を持ち、二人は教室を出る。

窓から吹き込む風で、掲示板のプリントが揺れた。

一枚だけ、床に落ちる。






「寮生活について」




そんなありふれた紙。

だが裏には、誰かが黒いペンで小さく書いた文字があった。




「星になれない。」



ryo『……?』




振り返る。

もうサクヤは歩き始めていた。




ryo『待ってよ、サクヤ』



sakuya「早く帰るぞ。」





リョウは紙をもう一度見る。

さっき確かに見えた文字は、もうどこにもなかった。





ただ雨だけが、静かに降り続いていた。









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