単独の任務。しっかりと成果を上げなければ...
───ここに私の居場所はなくなってしまう。
今回の任務で訪れた場所は、薄暗く少し湿った香りがする。昔の孤児院を思い出して、また…不安が募る。
相手にさえ、体調不良を指摘される程今の自分は見るに堪えない姿なのだろう。
今回の任務は、カード所持の疑いがある人物に接触すること、所持が確認できたら速やかに回収することだ。
だが現状プレイヤーの能力が、詳細に分かっていない以上下手に手出しをする訳にはいかない。
相手に呼応するように、私もカードを手にした。
が、一瞬目の前が白くひかり視界を奪った。
目を開くと私は目前の光景に立ち尽くしてしまった。
懐かしい、まだみんなの笑みが溢れる孤児院の一室。
どうして、なんでこんなところにミオが…それに、孤児院まで…
これは有り得るはずのない、幻想だ。
頭では、そう分かっているのに───
目の前に広がる、私の大切な記憶。
それは幻想であると分かっていても、ずっとこのまま夢を見ていたいと思う程、儚く美しいものだった。
カードを手に取った私を見て、皆の顔が引きつった
その一瞬でミオの雰囲気が変わった。
そう言い残し、また姿を消した。
そう笑うミオは、いつも通りの優しいミオだった。
ミオのいうことは事実だ。
皆の為にと、お金を稼ぐためにピノクルに入るまでは汚れ仕事も引き受けていた。そのため帰ることも減っていた。
きっと寂しい思いをしていたのは本当の事だろう。
私の目的はカードの回収。
それに、私の大事な思い出をこんなやつに良いようにされる訳にはいかない。
ミオはミオしかいない。プレイヤーの演じるミオは私の知っている、私の大好きなミオではない!
とっさに、スーツのポケットから小さな輸血パックを使い、刀を模倣した。
その一瞬、私はミオの心臓を貫いた。
ミオの目から大粒の涙が溢れたが、それは一瞬で塵となって消えた。
偽物のミオを演じ、私の記憶を利用した。
その罪は重い。
迷うことなく、プレイヤーの首に刀の棟で頚の後ろを素早く叩く。手刀と同じ原理だ。
無事カードは回収できた。
あとは、ハイカードに連絡をして、迎えを待つのみ。
今回の任務は成功した。
しっかり成果を上げることが出来た。私の居場所はまだ存在している。この事実に安堵し緊張の糸が緩んだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!