『別れましょう』
と、突然言われた別れの言葉。
3年も付き合った彼女にとうとう振られてしまいました。
まぁそれはそうでしょうねー。
だって僕、売れない小説家なんです。
いや、間違えました。
小説家を夢見るただのニートです。
名前は柿田樹と申します。
高校生の時、演劇部に所属したことをきっかけに、脚本を書きました。
その脚本が、おもしろかったみたいで、周りから大好評でした。
そんな褒め言葉が嬉しく、僕には才能があるのでは?と勘違いをしてしまったのです。
それからは僕は、小説家を目指し、多くの小説を書いてきました。
ですが、どれもコンクールで賞をもらうこともなく、小説家なんて、夢のまた夢でした。
諦めようと思った時、タイミングよく、2時審査や、3時審査まで合格してしまうのです。
お陰で僕は、小説家になれるのもすぐなのでは?と、また勘違いをしてしまうのでした。
こんな生活を続けて最早5年。
同級生たちは、大学に入って、青春ライフを過ごしていたり、社会人になっていたり、幸せな家庭を築いていたりと、
順風満帆な日々を過ごしています。
一方僕はただのニートです。
仕事なんかしておりません。親の脛をかじって生きている、クズな男です。
ですが、そんな僕にも彼女はいました。
彼女は僕の小説を見て、面白いと褒めてくれ、支えてくれました。
彼女はすごく綺麗で心優しい人でした。
でも今日、最後までそばに居てくれた彼女さえも、僕に別れを告げました。
悲しみたくても、悲しむ資格は僕にはありません。
それぐらい僕はクズ男です。
ここまでクズになるなら、小説家になるなんて夢を捨てたら?と、誰もが言うと思います。
そんなこともできません。
僕にとって、この夢は希望です。とてもとても、叶えたいと思います。
諦めることができないから、今もこの状態です。
はい、僕はクズな男です。
たくさんの人が、違う方向へ向かって歩いていいます。
誰もが幸せそうな顔を浮かべています。
そんな人々を見て、僕は自分を惨めに思い、悔しくて、涙が流れてきました。
なんでこんなにも自分が無能なのだろう?
なんで夢を叶えることもできないのだろう?
とても悔しくて悔しくてたまりません。
いっくん、小さい頃に僕が呼ばれていた名前。
懐かしい感覚がしたので、僕は声がした方へ振り返りました。
そこには、スーパーで買った野菜などが入れられているエコバッグと、
仕事用のトートバッグを持ち、
トレンチコートを着こなしている女性が立っていました。
と彼女は喜びながら僕に近づきます。
彼女は僕の顔を覗き込みました。
もちろん覚えております。忘れることなんてありません。
彼女は僕の“幼馴染”です。
名前は柚木遥乃といいます。
そして僕は彼女のことを「はるちゃん」と呼び、彼女は僕のことを「いっくん」と呼びます。
久しぶりの彼女との再会が嬉しくてたまらなくなり、
僕は腰を抜かして喜んでしまいました。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。