私が謎ゲボを吐いちゃった(仮)の一件があってから、私はクラスメイトの監視のもと、「極力休んでちょこちょこサポート」という位置付けをもらった。
現在というと芦戸さんを中心としたダンス隊に監視されつつある。完全にお荷物。
私のミスで、今回ばかりは一度休憩を挟まざるを得なくなってしまった。
各々が水分補給をする中、私はもう一度振り付けの構成とミスした部分を思い出しながら、リカバリーガールから貰った飴を一つ頬張った。
初めこそ喉がガビガビで定期的に謎ゲボも出た為、飴玉は美味しくは無かったが、他と比べればまぁ食べることが出来た。
今は純粋に甘い。右頬でカロカロと飴玉を転がしていると、麗日さんが心配そうに近寄ってくる。
すると後ろから背中をポンと軽く叩かれる。
寮の玄関扉が開き、二人が顔を出した
芦戸さんがそう問いかけると、二人は顔を見合わせて二ヤリと不敵に笑った。
二人の間から、プリプリと可愛らしい雰囲気を漂わせた八百万さんがソロリと出てくる。
その言葉が合図だったように、ダンス隊の私以外の女子メンバーが湧き立った。
私が小首を傾げていると、休憩の延長と称して女子が寮の中へ一目散に入って行った。
残ったメンバーは私と同じく首を傾げながらも後を追う。
ちなみに目蔵くんはB組に用があるらしく、先に行っておいてくれと言われた。
玄関を開けると事件性があると言っていいほどの叫び声を真正面から浴びる。
ドラムの練習をしていたであろうかっちゃんの罵声が矢継ぎ早に飛んで行った。
着る。可愛い。八百万さん関連。文化祭。
点と点が一つに繋がり、頭の中の電球が灯った。
どんな服なんだろう。という期待と共に、「私も見たい。」そう言おうとして一歩歩く。しかしふと止まる。
脚とか...尻尾どうしよう。というかそもそも私に似合うのかな。可愛らしい皆に似合ったとしても私が着たら服に着られている風になってしまうのでは。
葉隠さんは私に衣装を突きつけた。
黄色が主役と言っても良い、可愛らしい衣装。
なんか私だけスカートの裾に紺色のフリフリがついてる...?
女子陣を見上げるとニコニコ、ソワソワしている
麗日side
合宿前のショッピングモールで、殺虫剤を探す私の後ろをついてきていた滝ちゃんは、あるお店のショウウィンドウの前で立ち止まった。
気になって数歩引き返して、私の目に入ってきたのは、真っ白で、ところどころにフリルがついた夏にはぴったりの可愛いワンピース。
思わず歓声を上げてあなたちゃんを見ると、ちゃんは気まずそうに訂正した。
手袋をつけた手がガラスから離れて、だらりと下がる。
あなたちゃんの声...ワンピースを見やる目は寂しそうで、諦めたようなそんな風に聞こえた。
そうしてまた付け加えて、ぎこちなくあははと笑う
私は思ったことを仕舞い込まずそのまま口にする
輪郭もシュッとしてて、目も大きくて、青くて。鼻筋も通ってる。肌も白いし髪も黒くて、薄い唇は花びらみたい。
そりゃ、こんな綺麗な子、爆豪くんも好きになるよね。
もしかしたら、デクくんだって……
そこまで考えて頭を振った。
ふと我に帰って、思わずあなたちゃんを見ると、ぎこちなく口角を上げていたあなたちゃんは目を丸くして私を見つめていた。
あの時のあなたちゃん、すごく綺麗なものを見る目でワンピースを見ていたよね。
私は、誰かの笑う顔が好き。
あなたちゃん、私は今まで、あなたの大笑いをしたところ、嬉しいからはしゃぐところ、見たことないよ。
見たい。あなたの、あなたちゃんのえがお。
あなたside
フリフリが多くて、明るい黄色とコントラストの紺色...
可愛い
個性が発現する少し前、お父さんが仕事帰りに見つけたと言って新しい夏服としてワンピースを買ってきてくれた。
白くて、半袖と、スカートの裾についたフリルに黄色の模様が入った、シンプルかつ夏らしい、しかも可愛いレースとフリルがうまく合わさったワンピースだった。
次の日、私はかっちゃんと虫取りの約束をしていて、かっちゃんにどうしても見てもらいたくて、そのワンピースに袖を通して着て行ったことがあった。
虫籠と網を持ったかっちゃんは、私の周りをぐるりと回りながらジロジロと服と私を見る。
ドキドキとしていると、かっちゃんは口を開けた
しかめ面で、心なしか顔色が赤かった。
唖然とする私に続ける
そのあと出久くんが合流しても、かっちゃん不機嫌なままで、しばらく口を聞いてくれなくなった。
泣きながら家に帰ると父が数ヶ月ぶりの休みで、私の支離滅裂な話を聞くなり激昂し、家を飛び出して行った。
こんなのが着たかった
『 鈍臭ぇのにそんなの着ンなよ 』
明るい服を着て踊れたらどれだけ楽しいだろうって
『脚が付いてて変なのにわざわざ見える服着るンか。』
うれしい
衣装を見つめる視界はじわじわと熱を帯びて溢れていく
渡された衣装に伸びてきた手を、手首を掴む形で止めた。
喉がツンと張ってスラスラと言葉を紡げない。
麗日さんの手を離せなかった。
しんみりしている中、私の涙は止まることを知らず、ゴバゴバと涙腺が崩壊したみたく涙が溢れてくる。
女の子たち皆必死に励ましてくれて、葉隠さんはおすすめのお店を見せてくれるらしく、急いでスマホを取りに
エレベーターに駆けていった。
耳郎さんが男子達に叫ぶと、狼狽えていたみんなはゾロゾロと私を囲み出す
出久くんとかっちゃんは離れたところでこちらを伺っていた。
ガチャ。
玄関の扉が開いて、B組に行っていた目蔵くんが入ってくる。
歩きだったのが早歩きになって、私のすぐそばに駆け寄った。
事情説明中
目蔵くんは事情を把握して、私と、私の手の上にある衣装を見る。
そして、フゥ……と鼻か口か分からない息をついて、私の肩を優しく掴む。
眉をぐっと顰めている。
横目で出久くんを見ると出久くんは原因君だよね…?と言わんばかりにかっちゃんを見ていた。
私の涙を指で拭い、体をくるりと回して、「分かったら着てこい」と言わんばかりに私の背中を押した。
思ったよりスカートは短く、タイツも良い具合。慣れない色にチカチカするが動く分には問題ない。
抜き足で共有スペースに戻るとみんな一斉にこちらを向く。
最近目蔵くんが美味しいもの食べさせてくれるおかげでちょっと……増えたんだよね……(筋肉が)
わたしはくるりと振り向いて、足を進める。スリッパとフローリングが擦れる音が響いた。
かっちゃんを素通りする。
私は目蔵くんに近寄る。感想が欲しかった。
今度はこめかみを押さえてため息をついた。
やっぱり明るい色似合わないよね…
そう考えていると私の視界がガクンと縦に揺れて、気付けば床から足が離れていた。
おくるみ見たく包まれ、目蔵くんの足は黙ってエレベーターの方へと進んでいく。
next
ついたーに載せたやつ (多分載せてなかったので)















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!