カイザーは少し驚いた様子だったがその後すぐに理解したようで、フッと柔らかく笑った。
「そうかそうか。お姫様を助けるのはやはり俺の役割という訳だ。」
「うーん、何言ってんのかな?」
「必ず日本へ迎えに行く。それまでいい子で待っていてくれ。」
「…うん。了解。」
無心である。何を言っても通じないことはことごとく分からされた。適当に相打ちを打っていると突然私の前に跪くカイザー。急にそんなことをされるものだから戸惑いを隠せない。
「ich liebe dich so sehr.」
イヤホンを外され、カイザーのドイツ語がそのまま耳に入ってきた。そのまま左手を取られて"薬指"に口付けを落とされる。…白馬の王子様ってホントにいるんだなとまるで他人事のように呆然と立ち尽くしていた。
そろそろ日本行きの便が出てしまう。早く母の所へ行かなくては。跪くカイザーのイヤホンを外し、満面の笑みでこう放つ。
「日本で待ってるよ。
顔だけクソ男♡」
全て日本語。当たり前だがカイザーに意味は通じていない。きっと、別れの言葉を放っているとでも思っているんだろう。残念ながらめちゃくちゃ悪口だ。
その場で固まってしまったカイザーを置き去りに私は母の元へ走っていった。こうして長かったような、短かったような、ドイツ旅行に終止符を打った。
◆◇◆◇◆◇
長かった。本当にここまで長かった。
成田空港にて痛感した。周りは日本人だらけで表示も全て日本語。周りから聞こえる声だって日本語だ。最高すぎる。やっぱり母国最高。
その後車に揺られて数十分。ようやく我が家へ到着した。見慣れた我が家が心を落ち着かせる。ホームシックの意味がとてつもなくわかった。ヘトヘトになりながら家の中に荷物を運んだ。
ぼふっとベッドにダイブして1段落。約2週間ぶりの自室がこんなにも落ち着くとは。もう一生ここから出たくない…。
ピンポーん
家の中に響くインターホンに眉を顰める。どうやら私は神様に見放されているらしい。母は…多分寝ているし、私が行かないとなのか。フラフラと足を運んで玄関へ向かう。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!