春の終わり。
夜の7時。
塾の自習室に入ると、いつもの席に見慣れた姿があった。
参考書を広げ、真剣な表情で問題を解いている亮平。
黒縁眼鏡をかけ、時々ペンをくるくる回しながら考え込んでいる。
蓮が声をかけると、亮平は顔をあげた。
もう出会って半年。
大学4年生の亮平と、高校3年生の蓮。
年齢は違うけれど、塾では1番仲の良い存在だった。
蓮は当たり前のように亮平の隣へ座る。
2人で笑う。
静かな自習室。
聞こえるのはペンを走らせる音だけ。
それでも、不思議と隣にいるだけで落ち着いた。
1時間後。
亮平が伸びをする。
2人は自販機へ向かった。
笑いながら飲み物を買う。
ベンチへ座る。
亮平が口を開く。
嬉しそうに笑う亮平。
その笑顔を見るだけで、蓮まで嬉しくなる。
その言葉に、亮平は少し照れたように笑った。
亮平は視線を逸らす。
亮平side
危ない。
そんな顔で笑われたら、勘違いしそうになる。
閉館時間。
夜風が心地いい。
駅までの道。
少しだけ考えてから答える。
亮平side
まただ。
またそんなことを言う。
亮平は思わず笑う。
蓮は嬉しそうに笑った。
その笑顔に、亮平の心臓はまた少し速くなる。
駅の改札。
手を振る。
姿が見えなくなるまで。
2人とも振り返ってしまうことには、お互いまだ気付いていなかった。
家に帰った蓮。
返事はない。
リビングへ行き、ソファーへ倒れ込む。
スマホを見る。
亮平から一通だけメッセージ。
それだけ。
たったそれだけなのに。
自然と笑ってしまう。
今日はたくさん笑った。
一緒に帰った。
隣で勉強した。
それだけなのに。
すごく幸せだった。
ふと、今日駅前で見かけた親子を思い出す。
小さな男の子がお父さんに抱っこされ、お母さんが優しく笑っていた。
もし。
もし俺が結婚するなら。
そんなことを考えた瞬間、頭に浮かんだのは1人だけ。
思わず名前を呼ぶ。
照れくさくて笑ってしまう。
そのまま目を閉じる。
元気な声。
小さな男の子が走ってくる。
抱き上げると、子供は楽しそうに笑った。
優しい声に振り向く。
エプロン姿の亮平が立っていた。
子供たちが飛び跳ねる。
一人。
二人。
三人……。
気付けば家の中子供たちでいっぱいだった。
笑い声が家中に響く。
亮平は優しく微笑みながら言う。
笑い合う2人。
思わず呟く。
亮平頑張れる首を傾げた。
亮平は少し照れながら笑う。
その笑顔が愛しくて。
蓮は幸せを噛みしめた。
目を開けると、そこはいつもの自分の部屋。
静かな夜だった。
そう笑いながらも。
夢の中の亮平の笑顔だけは、いつまでも忘れられなかった。
一旦きります。
後編へ続く。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。