-おまけ-
目の前で嬉しそうにロリータ系の服を選ぶ土岐世を眺める。
土岐世を眺めながら、「プライベートの土岐世」と初めて会った時のことを思い返した。
土岐世に出会ったのは、母から頼まれ買い物をしに出掛けているときだった。
スッとすれ違った人物に違和感を覚え足を止める。振り返ればロリータファッションに身を包む長髪の女の子。背の高さからして、同い年ぐらいかと想像する。
でも、違和感の正体はそこじゃない。直感的にそう思い、顔を見ようと手首を掴んだ。ビクッと肩を揺らした後、その子はゆっくりとこちらを振り返る。
何度かクラスで見かけたことのある人気者の顔がそこにはあった。その顔は血の気が引き、真っ青になっていた。
土岐世は相当動揺していたのか、口をハクハクさせて動かない。どうしようか、と迷っていると土岐世はゆっくりとこちらを指差した。
「じゃ、じゃあ」と言って、歩いて行こうとする土岐世の肩を掴んだ。
なぜか土岐世のことが気になる。
その心が顔に出たのか、目が笑っていないが心底楽しそうな笑顔になっていると自分でも分かった。土岐世は、その時血の気の引いた顔のまま人気の居ない場所へと引っ張って行った。
涙目で言う土岐世。元々言う気はなかったけど、少し魔が差してしまった。
土岐世は分かりやすく動揺し、目が右往左往していた。
選択肢のあるようで全くない質問。土岐世の答えは僕の予想通り、YESだった。
土岐世は律儀に月に3回、プライベートで僕と会ってくれてる。何をするかは日によるが、必ず1回は土岐世の服選びを眺めているのだ。
初めは恐怖を持ち、警戒していた土岐世も、今では気の抜いた姿を見せてくれるようになっただけでなく、学校でも話しかけてくれるようになった。
目を輝かせながら、2つのロリータ服を見せる土岐世。
まぁ、僕が物で釣った成果とも言えるが...。
とは言っても、僕はこの時間が1番楽しい。この気持ちは嘘ではない。もし一つ、叶うとすれば...。いや、これは叶うまで秘めていよう。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!