両親が眠る墓の前で、私はこの6年分の思い出を語った。
白夜と二人で逃げ出してまず私達が向かったのは、レーネ村だった。私がお父さんとお母さんのお墓に手を合わせたいと言ったのが発端。白夜は「石に手を合わせて何になるんだ?」という感じだったが、ちゃんと私を連れてきてくれた。
ただし、白夜はこの墓地にはいない。白夜曰く、万が一にも鬼人族が見つかるとかなり不味いらしいので、レーネ村のはずれで待機している。
少し強くなった風に肩を抱きながらも、私は話し続ける。風は墓地特有の冷たさを含んでいた。そして。
風は、声をも運んできた。ゆっくりと顔を声のした方に向ける。
透けるような水色の髪と、青い瞳。細身で少し身長は低めだけど、私と同い年くらいの顔立ちの少年が、白い花束を手に立ち尽くしていた。その顔には驚きを湛えている。
声も姿も、私は見覚えがない。私の事を忌避するような様子もないから、レーネ村の人でもない。
でも、何故だろう。私は彼を、知っている気がする。
『…僕が、ダリアを助けにくるから。』
古い記憶が、呼び起こされる。そう言って私に泣き顔で笑いかけてくれた小さな男の子の姿が脳裏に閃いた。
花束が、音もたてずに地面に落ちた。
それから10分程たった後。
私からことのあらましを聞いた少年こと蒼鱗くんは、痛ましげに眉尻を下げて頷いた。
然 蒼鱗。私と同い年の古い友人だ。
確か私が6歳の頃。レーネ村に母親と共に引っ越してきた姉弟がいた。
それが蒼鱗くんと、1つ違いの姉である紅炎ちゃんだ。
地下室に閉じ込められていた私に、誰よりも仲良くしてくれた二人である。
紅炎ちゃんはポジティブで親しみやすく、私に料理を教えてくれた張本人。そんなお転婆な紅炎ちゃんの背中について回っていた気弱な蒼鱗くんは、地下室しか世界を知らなかった私に希望をくれた恩人でもある。
結局7歳くらいには、2人とも然家のお父さんがいるところに引っ越してしまったけど、それでも私の中では、大事な大事な思い出だった。
私が聞くと、蒼鱗くんはふっと遠い目をした。
まだ7歳の子供の約束ではあれど、私にとっては文字通り明日を生きる希望になったのだ。きっといつか、蒼鱗くんが迎えに来てくれる。そう思って生贄として渡るまでの3年間を過ごしたのだから。
その言葉には、後悔が色濃く現れていた。
優しく、責任感の強い彼の事だ。きっと当時、凄く自分を責めて、無力感に嘆いて…そう考えると、申し訳なくなってくる。
成る程、だから花束を持ってたんだ。そして今更ながら、感謝が込み上げてくる。
本当に心からの感謝を込めて言ったんだけど、蒼鱗くんは目を見開いて硬直してしまった。首を傾げて「大丈夫?」と聞くと、我に返ったのか慌てて「大丈夫!」と言った。
凄く纏めて話したから、白夜の事を詳しく話し忘れていた。さらっと『手伝ってくれた人』って伝えたから、祝由様の腹心の部下…って言った方がいいのかな…。
背後から急に声をかけられ、私は吃驚仰天しながら悲鳴を上げた。突然背後から現れた白夜は、驚いた私に逆に首を傾げた。
白夜への言及を諦め蒼鱗くんに振り向くと、彼は何か信じられないものでも見たように硬直していた。そしてただ一言、
という言葉が漏れる。
え、という声は、言葉になる前に消えた。
白夜が私に断りを入れると同時に、私の体は空高く舞い上がっていた。
というより、白夜に上空に投げられたという方が正しい…ってそうじゃなくて!
悲鳴を上げながら落下する。
人間は、本当に恐怖を感じているとき、世界をはっきりと認識できる。私もそれが起こり、真下で起こる出来事全てをスローモーションで見た。
白夜がいた筈のところに、彼の姿はなかった。代わりにーーー…目を疑ったけどーーー…蒼鱗くんがとんでもない大きさの剣を深々と地面に突き刺し、大地に割れ目を作っていた。
どう考えても白夜を狙ったとしか見えないその画に、私は意味が分からず目を塞いでしまいたくなった。白夜は…?と一瞬心配になったけど、すぐに自分の方が緊急事態だと思い直す。いくらスローモーションに見えても、地面が近づいてくる。
蒼鱗くんが私を見上げ、焦った表情を浮かべたのが見える。私は死を覚悟し、固く目を瞑った。
痛みや衝撃の代わりに、ザブンと水面を割り水に落ちたような感覚があった。混乱の中目を開けようとしても、痛くて開けられない。でもそのおかげで、本当に水中にいるのだと分かった。生きて、水の中にいる。
息を止める暇がなかったから、早くも窒息しそうだった。ゴボゴボと口から泡が溢れて、たくさんの水を呑む。
その直後、私は誰かに手を引かれて水から解放された。誰か、といっても、私に触れられるのは白夜だけなので、その事に無意識に安堵した。
固い地面に転げ落ちた私はげほげほ咳き込み水を吐き出すと、2、3秒の間をおいて顔を上げる。目の前に屈んでいる白夜の金色の瞳と目があった。
咳き込む私を宥めながら、白夜が少し体をずらして自分の後ろを指し示す。その光景を見て、私は再び悲鳴を上げた。
先程の大剣……といっても、刃が半分程欠け、短くなっているが……を体を支える杖のようにつき、蒼鱗くんが立っていた。ただ、落下中に見た時とは様子が違う。
右足が痛むのか、体重をかけないように重心を傾けていた
。左肩や脇、足など所々に小さな裂傷があり、出血している。頭も切っているのか、ツウ…と血が一筋顔をつたう。
その顔は痛みなのか苦しみなのか、はたまた理解ができないのか、苦悶の表情を浮かべていた。
白夜の口ぶりから蒼鱗くんを傷付けたのが白夜だと分かり、初めて本気で白夜に怒りを覚えた。怒鳴ろうと口を開くと、蒼鱗くんの静かな声が私を制止した。
白夜の言葉通りそれほど深い傷はないようで、蒼鱗くんがゆっくりと歩み寄ってくる。諦めを湛えたような顔が、幼い頃の臆病な彼の顔と重なる。
まだちょっと怒っているのか、白夜の口調は荒い。蒼鱗くんを一瞥もせず、ただ私が立ち上がるのに手を貸すだけだった。
私の呪いの痣が白夜の呪いの痣に相殺され消えるのを見て、蒼鱗くんは神妙に呟いた。
その言葉でやっと、私は自分が濡れ鼠なのに気が付いた。服も水分をすって重たい。寒い季節じゃないことだけが救いだろうか。それで、さっきの水に落ちた不思議な現象を思い出した。
白夜が私の後ろを視線だけで示す。振り向いた私は、なんとも言えない奇怪な物を見ることになる。
水…の球体、というべきなのかな?私が2人はゆうにはいれそうな水の塊が、表面をゆらゆら揺らしながら浮いている。
淡々と進んでいく会話のなか、私は小さく疑問を口にした。
それが今日初めて、2人の息が揃った瞬間だった。
主)こんにちはこんばんは!きなこもちです!
以前小ネタで書きました、ダリアの旧友である姉弟の弟・蒼鱗が登場です!
大剣ぶんまわし突然白夜に襲いかかるという中々なご挨拶をかましていますがちゃんといいこですよー。
それとは全く関係ない小ネタをどうぞ!
小ネタ:魔術について
ダリアは魔術が使えません。補足説明を見ている方なら分かると思いますが、魔術が使えるのは気脈(生命力の流れ的な)と波長が合うごく僅かの人だけなので…。
魔術は火・水・風・岩・雷・氷・草に分類されています。それぞれの生命力を保つ神様がいることで、気脈の流れが正常になっています。意外と神様って大事!
後々白夜の魔術についても触れていくと思いますのでご期待ください!
それでは次回お会いしましょう~!















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。