バレンタインデーの放課後。
私は、小さな紙袋を胸に抱えて昇降口に立っていた
中に入っているのは、昨日の夜、
何度も失敗しながら作った手作りチョコ。
渡したい相手は、前田陸くん。
この恋は、完全な私の片思い
5月にあった体育祭で、陸くんのリレーを見てから
ずっと心の中で密かに好きの思いを強くしていた
その時から、LINEを追加して話しかけてみたり
たまに直接話したりしたけど
全然進展って感じはしないままだった
それに、陸くんはクラス内だけじゃなくて学年で人気で
誰かに好意を寄せられることには慣れているんだと思う
そのせいで、陸くんは女子の扱いが上手くて
私は余計に陸くんのことを好きになってしまう毎日だった
「陸くん!」
「明日、チョコ渡しても平気?」
昨日の夜LINEを送った
拒まれたらもう私の恋はここまでだと思って
いい区切りにもなると思ったからだ
『チョコ!?え俺にくれんの?』
「うん」
「迷惑だったら全然大丈夫だよ!!」
『迷惑なわけないよめっちゃ嬉しい』
『絶対欲しい』
「ありがとう、明日渡すね🥹」
『まじ?ありがとう』
チョコを受け取ってくれると言う陸くん
きっとこれも陸くんの優しさ
でも、当日はタイミングを掴めなかった
陸くんは休み時間はいつも誰かに囲まれていて、
放課後も友達と一緒
最終的に、意を決して靴箱の方を見に行くと、
そこには現実があった
陸くんの靴箱も、ロッカーも、
チョコでいっぱいだった
それを見た瞬間、胸がズキっと痛んだ
昨日、私みたいなLINEを送った女の子が他にも沢山いて。
私なんかその中の1人
紙袋をぎゅっと握りしめて、
私は帰ろうと踵を返した。
そのとき。
聞き慣れた声に、心臓が跳ねる
振り返ると、そこに立っていたのは陸くんだった。
手には、チョコが山ほど入った袋。
私は一瞬迷って、それでも紙袋を差し出した
陸くんは一瞬驚いた顔をして、
それから、すごく嬉しそうに笑った
私の顔が、一気に熱くなる
陸くんは、受け取った紙袋をしばらく見つめていた
まるで、中に入っているもの以上の気持ちを感じ取るみたいに。
私は指先で制服の袖をぎゅっと掴む
陸くんは少しだけ息を吸って、言葉を選ぶように続けた
陸くんは照れたように笑った
胸の奥がいっぱいになって
私は言葉を探した
私は小さな声で言った
陸くんはすぐに首を振った
1歩距離を詰める
昇降口に、夕方の静けさが落ちる
陸くんは真剣な目で私を見つめた
私の視界が、少し滲んだ。
ずっと胸の奥にしまっていた気持ちが、
今、言葉になろうとしている
陸くんは一瞬驚いて、それから、
心から嬉しそうに笑った
その一言が、全部を表していた
二人並んで、昇降口を出る。
手はまだ触れていないのに、
距離は、確かに近くなっていた。
その日、バレンタインデーは
二人にとって、
はじまりの日になった。
end













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。