第14話

バレンタインデー Riku
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2026/01/10 07:00 更新
バレンタインデーの放課後。

私は、小さな紙袋を胸に抱えて昇降口に立っていた





中に入っているのは、昨日の夜、
何度も失敗しながら作った手作りチョコ。





渡したい相手は、前田陸くん。









この恋は、完全な私の片思い


5月にあった体育祭で、陸くんのリレーを見てから
ずっと心の中で密かに好きの思いを強くしていた





その時から、LINEを追加して話しかけてみたり

たまに直接話したりしたけど

全然進展って感じはしないままだった






それに、陸くんはクラス内だけじゃなくて学年で人気で

誰かに好意を寄せられることには慣れているんだと思う





そのせいで、陸くんは女子の扱いが上手くて
私は余計に陸くんのことを好きになってしまう毎日だった













「陸くん!」


「明日、チョコ渡しても平気?」



昨日の夜LINEを送った


拒まれたらもう私の恋はここまでだと思って
いい区切りにもなると思ったからだ



『チョコ!?え俺にくれんの?』


「うん」
「迷惑だったら全然大丈夫だよ!!」



『迷惑なわけないよめっちゃ嬉しい』
『絶対欲しい』



「ありがとう、明日渡すね🥹」

『まじ?ありがとう』


チョコを受け取ってくれると言う陸くん

きっとこれも陸くんの優しさ








でも、当日はタイミングを掴めなかった


陸くんは休み時間はいつも誰かに囲まれていて、
放課後も友達と一緒




最終的に、意を決して靴箱の方を見に行くと、
そこには現実があった





陸くんの靴箱も、ロッカーも、
チョコでいっぱいだった



それを見た瞬間、胸がズキっと痛んだ





昨日、私みたいなLINEを送った女の子が他にも沢山いて。


私なんかその中の1人
 


あなた
そっか....



あなた
こんなにいっぱいもらってるなら……
私のなんて、いらないよね






紙袋をぎゅっと握りしめて、
私は帰ろうと踵を返した。








そのとき。








陸
あなた




聞き慣れた声に、心臓が跳ねる

振り返ると、そこに立っていたのは陸くんだった。






手には、チョコが山ほど入った袋。



陸
探してたんだけど、もう帰るとこ?



あなた
え...あ、うん



私は一瞬迷って、それでも紙袋を差し出した





あなた
これ...その、良かったら...




陸くんは一瞬驚いた顔をして、
それから、すごく嬉しそうに笑った




陸
ありがとう。正直さ、今日ずっと
これをもらえるかどうか気にしてた




あなた
...え?




陸
チョコいっぱいもらってるのに変だけどさ
あなたからじゃなきゃ、意味ないっていうか



私の顔が、一気に熱くなる


陸
俺、あなたが好きなんだ。
だから……渡してくれて、ほんとに嬉しい



あなた
えっ?



陸くんは、受け取った紙袋をしばらく見つめていた


まるで、中に入っているもの以上の気持ちを感じ取るみたいに。



陸
これ、バレンタインの勢いとかじゃないよ
前からずっと思ってた



私は指先で制服の袖をぎゅっと掴む

陸くんは少しだけ息を吸って、言葉を選ぶように続けた



陸
授業中に真剣な顔してるとこも、
困ってる人に何も言わず助けるとこも
陸
俺が話しかけたとき、
ちょっと驚いた顔するのも



陸くんは照れたように笑った



陸
気づいたら、あなたのことばっか見てた



胸の奥がいっぱいになって
私は言葉を探した




あなた
......でも


私は小さな声で言った



あなた
陸くんは、モテるし……
私なんかが、ってずっと思ってた


陸くんはすぐに首を振った
陸
そんな事ない


1歩距離を詰める


陸
俺にとっては、あなたが特別なんだ



昇降口に、夕方の静けさが落ちる
陸
だから......





陸くんは真剣な目で私を見つめた





陸
俺と、付き合ってほしい

私の視界が、少し滲んだ。

ずっと胸の奥にしまっていた気持ちが、
今、言葉になろうとしている




あなた
...私も




あなた
陸くんが、好きです


陸くんは一瞬驚いて、それから、
心から嬉しそうに笑った




陸
よかった




その一言が、全部を表していた



二人並んで、昇降口を出る。
手はまだ触れていないのに、
距離は、確かに近くなっていた。












その日、バレンタインデーは
二人にとって、
はじまりの日になった。





end

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