一瞬、遠くの彼の気配が変わった。
何かに飲み込まれるような、おぞましい気配がした。
そして、身体に鋭い痛みが走った。
壊れていく。
神力がなくなっていくのを感じる。
神は人々の信仰によって力を手に入れる。
それがこの速度で崩れ落ちるなんて。
俺は残った神力を振り絞って村に移動した。
・
村は酷い惨状だった。
ひどい自然災害が通った後のように、築かれた文明が全て破壊され、無惨な姿で自然に還っていた。
村に一歩足を踏み入れれば、ぞっと背筋が凍るような気がした。
間違いなくとやさんだ。
歩いていると、そこら中に人間が倒れている。
魂が宿ってなかった。亡くなっているんだろう。
小さな背中が、更地の真ん中でうずくまっていた。
こちらを振り向いたとやさんの目は、翡翠色に美しく光っていた。
初めて見た、とやさんの魔法。
村を破壊したその魔法は、とても少年が使えるようなものじゃなかった。
とやさんの周りにあった瓦礫が大きく浮いた。
雷が鳴り響く。
瓦礫は雷をまとい、一直線にこっちに飛んできた。
手を大きく横に払う。
瓦礫が落ちる。
とやさんは無表情だった。
本当に感情が宿っていないような、そんな表情。
それも、あの魔法を使うたびに感情が剥がれていっている。
さっき名前を呼んでくれた時だけは、確実に「剣持刀也」がそこにいたのだ。
ただ、今のとやさんは明らかにこっちを攻撃しに来ている。
絶対に本人の意思ではない。それだけは分かっている。
とやさんをどうにかして傷つけないまま、無力化する必要があった。
必死に頭を回転させる。
結局思いついたのはそんな地道な方法だった。
それでも、やるしかない。
俺はとやさんに近づいて、魔法を自ら受けに行った。
・
なんだか、ふわふわする。
心地がいい。
体から何かが抜けていくような、そんな感覚。
ぼーっとその感覚に浸っていると、ある小さな声が聞こえた。
だめ?何がだめだと言うんだろう。
こんなに心地がいいのに。何も背負わなくていいのに。
どうして、どうしてあなたが謝って…
・
目を覚ますと、こっちを覗き込むガク君の顔が飛び込んできた。
僕が小さく声を出すと、ガク君は驚いたように目を見開く。
なにが起きたか分からなくて、困惑の言葉をもらす。
ガク君は僕の手を掴み、安心したように言葉を絞り出した。
感極まってるガク君を横に、僕は状況がいまいち飲み込めなかった。
いったい何があったんだ?
どうにかして状況把握をしようと、辺りを見回した。
何も、無い。
あったはずの村も、あったはずの祠も、あったはずの人も。
間違いなく村があった場所だった。
大好きだったみんなの魔力が、そこら中に見えるから。
記憶がまわる。ぐるぐると。
ひっかかって大事なことを何も思い出せない。
なんだ?僕はなにをした?みんなは?みんなはどこに…
ガク君の言葉にはっと顔をあげる。
上を見上げれば、そこには痛々しい傷のついたガク君がいた。
ガク君の瞳に映る僕の目は、翡翠色に光っていた。
ガク君がしゃがんで、座っていた僕の視線に合わせた。
ガク君は悲しそうに微笑んだ。
まるで何かを決心したかのように。
国。
あの変な事を言ってきた男の人を思い出した。
僕がみんなのことを殺したと知れば、僕は囚われることになる。
嫌な予感がした。
背負う。
ようやく、彼の言ってることが分かってしまった。
本当に厄災の神で、みんなを殺したという僕の咎を彼一人で背負うことになってしまう。
濡れ衣を着て、歴史に刻まれることになってしまう。
それは、違うじゃないか。
僕の犯した罪を、背負うべき業をガク君に背負わせるだなんて。
別に、どんなに辛いことがあったっていい。
覚悟ならできてる。どんな道でも歩んでやる。
だから、だから…
ガク君はそっと僕の頬に触れる。
見慣れない、狐のような姿をしていた。
幼かった僕は、彼のその行動をとめることができなかった。
その言葉を最後に、僕の意識は途切れた。
僕の記憶は、書き換えられたようだった。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。