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第1話

プロローグ 〜宇宙へ〜
18
2022/07/25 15:58
僕の住んでいる所から徒歩5分ほどの所にある、星天駅せいてんえき
この駅には、田舎だからか、1日に3本しか電車が来ない。
凪沙
まぁ、乗る人もいないから、それくらいが丁度良いんだろうけど
そう。この町はだいぶ小さな町で、人口も少ない。
だから、電車に乗る人と言ったら、となりの大きな町で働いている人か、僕のような遠距離通学をしている人くらいだ。
凪沙
……さて、そろそろ来るかな
僕の宇宙船が
     まもなく 18時09分着 鈍行 にしきが参ります
       危ないですので 黄色い線までお下がりください

そんな僕の考えを読んだかのように、ホームにアナウンスが流れる。
遠くで踏切の音がする。
どうせほとんど人なんて通らないのに、設置して何の意味があったと言うのだろう。
凪沙
あ、でも、全てのものに意味があるなんて、そんな訳ないんだったw
実際、僕もそうだしね…w
電車は、踏切を渡り終わったようだ。
踏切の甲高い音は、もう聞こえない。
凪沙
…パタン
僕は読んでいた本を閉じて立ち上がった。
よく考えれば、あの有名な私立の中高一貫校の制服を着た生徒が、昼間から駅のホームで本を読んでいるなんておかしなことだろう。
だが、ただでさえ人の少ないこの町で、ましてこの駅に来る者なんて滅多にいないのだ。
凪沙
ふぅ
本も読み終えたし、これで心残りなく宇宙に行ける
そう呟いて手に持っている本に目を向けた。
600ページはあったであろう本の重みを感じて、司書の先生の顔を思い浮かべる。

「あら、今日もいらっしゃったのね。学級委員長さん。」
「相変わらず読むのが早いわねぇ。今日は何の本を借りていく?」
「先生もこの本読んでみたんだけどねぇ、とっても素敵な本だったわ。流石、センスがあるわね。」

いつもにこやかに話しかけてくださる先生だった。
最近は、家族の介護で忙しいらしく、僕が図書室に行っても居ないことが多かったが。
凪沙
あの先生ともお別れか…
ふと、寂しさがよぎったが、首を振って感情を制する。
カタンカタン…カタンカタン…
電車が駅に近づいて来る。
電車も運転手の方も、無事に駅に着けたらホッとするのだろう…なんて要らないことを考えながら歩いていく。
ガタンガタン…ガタンガタン…
そんな電車の足音に張り合うように、またアナウンスが流れる。

    ……黄色い線までお下がりください
嫌だよ
僕は、宇宙にいきたいんだ。
ローファーを履いた小さな足が黄色い線を踏んで、その先へ…
やっと来た。僕の宇宙船。
宇宙船が発射する時のエンジン音
3…2…1…発射…
ホーム外に踏み出した足
ゴォォォォォッ
押されるような圧力。痛み。
フワァ…
大気圏を抜けた後の無重力。浮遊感。
十分速いのに、鈍行列車、だなんてね。
僕の方が、よっぽど鈍行だ。
僕が見た宇宙そらには、あかあおのグラデーションの中に輝く一番星があった。
ついに始まったんだ。待望の“僕の宇宙旅行”が

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