僕の住んでいる所から徒歩5分ほどの所にある、星天駅。
この駅には、田舎だからか、1日に3本しか電車が来ない。
そう。この町はだいぶ小さな町で、人口も少ない。
だから、電車に乗る人と言ったら、となりの大きな町で働いている人か、僕のような遠距離通学をしている人くらいだ。
まもなく 18時09分着 鈍行 錦が参ります
危ないですので 黄色い線までお下がりください
そんな僕の考えを読んだかのように、ホームにアナウンスが流れる。
遠くで踏切の音がする。
どうせほとんど人なんて通らないのに、設置して何の意味があったと言うのだろう。
電車は、踏切を渡り終わったようだ。
踏切の甲高い音は、もう聞こえない。
僕は読んでいた本を閉じて立ち上がった。
よく考えれば、あの有名な私立の中高一貫校の制服を着た生徒が、昼間から駅のホームで本を読んでいるなんておかしなことだろう。
だが、ただでさえ人の少ないこの町で、ましてこの駅に来る者なんて滅多にいないのだ。
そう呟いて手に持っている本に目を向けた。
600ページはあったであろう本の重みを感じて、司書の先生の顔を思い浮かべる。
「あら、今日もいらっしゃったのね。学級委員長さん。」
「相変わらず読むのが早いわねぇ。今日は何の本を借りていく?」
「先生もこの本読んでみたんだけどねぇ、とっても素敵な本だったわ。流石、センスがあるわね。」
いつもにこやかに話しかけてくださる先生だった。
最近は、家族の介護で忙しいらしく、僕が図書室に行っても居ないことが多かったが。
ふと、寂しさがよぎったが、首を振って感情を制する。
カタンカタン…カタンカタン…
電車が駅に近づいて来る。
電車も運転手の方も、無事に駅に着けたらホッとするのだろう…なんて要らないことを考えながら歩いていく。
ガタンガタン…ガタンガタン…
そんな電車の足音に張り合うように、またアナウンスが流れる。
……黄色い線までお下がりください
ローファーを履いた小さな足が黄色い線を踏んで、その先へ…
宇宙船が発射する時のエンジン音
ホーム外に踏み出した足
押されるような圧力。痛み。
大気圏を抜けた後の無重力。浮遊感。
僕が見た宇宙には、紅と蒼のグラデーションの中に輝く一番星があった。
終に始まったんだ。待望の“僕の宇宙旅行”が
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。