とある日の午後、あなたはそう言った。
モナクとの会話で、スイーツの話になっていたのだ。
すぐ側で仕事をしているオーターも、会話を聞いていた。
何かあるなら、買ってこよう、という顔だ。
モナクも、それに気付いた上で聞く。
あなたは考える……食べてみたいスイーツ?
そんなの無限に出てくる。これがいちばん、というのは決められない。
強いて挙げるとすれば……
そう言ってみる。だが、反応はなかった。
何だそれは、とオーターとモナクは思った。
新種の呪文にしか聞こえない。
フラン……‼︎‼︎
分からなすぎて、ついに心の中で叫び始める。
今度は、人の名前かと思った。誰だ其奴、フランって。
オーターは首を傾げた。
目の前の書類よりも、言っている意味が分からない。
オーターは、その声を聞きながら立ち上がる。
もしかしたら、他の神覚者なら知っているかもしれない。
聞いてみよう。
そう決意して、部屋から出た……
幸運な事に、いちばんそういうのに詳しそうなカルドがいた。
話題に出してみる。
オーターは、一文字一文字を確かめながら言う。
すると、カルドは首を傾げる。
それってどこに載ってたの、と付け加える。
スイーツガイドらしい、と答えると、
と言った。カルドは欲しかったが、買えなかったらしい。
知ってそうだと思ったが、見当違いだったようだ。
オーターの反応を見て察したのか、カルドはそう言った。
オーターとしては、刺身にハチミツをかけるような馬鹿舌の持ち主に、敬意を払うつもりはない。
たまたま通りかかったソフィナが、口を挟む。
そういうの、知ってるんだ。
カルドはそう思ったが、怒られそうなので口には出さない。
それくらいなら作れそうだな……とオーターは思った。
何回か料理をしているうちに、腕も上がっている。
それも、簡単なクッキーなら焼けるくらいにだ。
あなたのことを知らないも同然のソフィナは、そう聞いた。
食にこだわりが何もなかったオーターが、突然そんなことを聞いてくるようになったら、誰でも突っ込みたくなるだろう。
面白がったカルドは、今までの逸話も交えて説明する。
モナク事件後以降、局で広まったものだ。
オーターからすると、初耳である。
神覚者がそれで大丈夫なのか、と思っていたソフィナだったが、どうやら違うらしい。謎が解けて、安心していた。
古語と本という言葉に反応する。
活字の時点で無理、という人が多い中で、そういう人材は貴重だった。
それと、ただ単にここまでオーターが世話を焼く子が気になる。
とりあえず会ってみよう、と興味を示す。
生クリームがたっぷり、みたいな物は途中で飽きるらしい。
あなたの周りには男性が多いので、女性の知り合いが出来ることは良いことだと思う……流石に、元女性のメシシスはカウントできない。
普段の会話が業務連絡しかないオーターが、いきなり聞いてきたら確かに怖い。
聞けないのも当然だろう。
そこで、レナトスがやってくる。
そう言って、近付いてきた。
部下ともそれなりにコミュニケーションを取る人だ。何か聞いているかもしれない。
三人で近付く。正確には、圧をかける。
するとm何か考えるようなそぶりを見せる。
そう言われても、実物を誰も知らないのだから分からない。
カルドは、知ってるんだ、と返す。
確証はどこにもないので、多分と付け加える。
四人の横を、たまに局員が通り過ぎる。
頭を抱えた神覚者達を見て、何について話しているんだ、という顔をしていた。
その中の一人が、冊子を持って近付いてきた。
そう言われると、その冊子を此方に差し出した。
それには、スイーツガイド、と書かれている。
しかも最新版だ。これぞ求めていた物である。
実際には局員の私物だが、バレると怒られそうなので誤魔化す。
私物ということを承知の上で、カルドはそう聞く。
勿論です、と答えた。
冊子の周りに、四人は集まる。
何とも異様な光景だった。
写真が貼られたページ……上には、「王冠をイメージした菓子、サントノーレ」と書かれている。
レナトスの言った通り、パイの上に小さなシュークリームが三つほど載っている。
周りにはクリームもあった。
口々にそう言う。
この時間から行っても、買える見込みはなかった。
午前中に休みを取って、朝から並んでいけば買えるはずだ。
外で仕事、とでも言っておけばあなたも納得するだろう。
ありがとう、とカルドが局員に冊子を返す。
場を解散した後、オーターは即届出を提出しに行った。
そして翌日。
オーターは死人の目をしていた。
まさか、ここまで混むとは思っていなかったのである。
しかも、殆ど女性。その中に入るのは地獄だ。
あなたのため……と何とか耐えたが、五徹目並のきつさだ。
とりあえずあなたの分と、一応カルドの分の確保には成功。フランは難なく買えた。
部屋に入る。
すると、あなたは椅子から立ち上がり、オーターを出迎えた。
仕事、と言ったはずだが、そう聞いてきた。
届出を提出したが、理由欄には「私事」としか書いていない。
事情を説明しておけばよかった、と後悔する。
モナクは察しているのか、オーターの背後へと回った。
背中を叩かれる。はやく言ってやれよ、とでも伝えているようだった。
紙袋をあなたに差し出す。
あなたはがさごそと紙袋を丁寧に漁る。
数量限定の人気商品、開店前から並ばないと買えない。
貴重な休みを、これに使ってしまって良かったのか。
他の用事もあったが、買うのが第一の目的であった。
あなたは紅茶を用意し始める。
まだ覚えたてだ。準備する手が拙い。
食べる予定のないオーターだったが、一応カルド用の物を食べる事にする。
長時間並んだのだから、このくらいなら許されるだろう。
甘い物に特段興味のないオーターだったが、あなたの笑顔が見れるのなら、たまにはいいと感じられた。
しかし、開店前から長蛇の列に混ざるのはもうこりごりである。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。