霖雨がじきに終わりかけ、短夜は近づいて来る。
しかしそんなことはここ無限城では関係無い。
ついこの間、例の元柱の鬼娘に話しかけた。
彼女は絶望の表情はしなかった。
恐怖の表情もしなかった。
自分をただ嫌悪しているだけのように見えた。
あの帰り道に私はこう思った。
あの子は絶望や恐怖を少なくとも私の前では見せなかった。
元柱にしては、随分と落ち着き過ぎている。
では、どのような表情なら見せるのだろうか。
それがふと気になって、またここに来たんだ。
もしあの子のする怯えた表情を瞼の裏に描くとすれば、それはどれほど愛らしいのだろうか。
気づけば足取りは、まるで今にもふわっと浮いて、どこか流されていくのではないかと思う程軽かった。
変幻自在の城を真っ直ぐ彷徨う。
あまりにも動きやすい。
そのためすぐに辿り着いた。
彼女の横顔が見えたんだ。
彼女は壁に背中を預けて遠くを見つめた後、自分にふと気がついて僅かに視線を送った。
表情は変わらなかった。
隣に来て、そう話しかけた。
彼女は私の名前を言ってすぐ、また視線を前に戻した。
私のことなど眼中に無いのだろう。
少しだけ様子を見て、こう切り出した。
自分はあれを一部始終見た。
この様子が面白おかし過ぎて、たまたま近くに居た轆轤君にも話したんだっけ。
おそらく轆轤君から聞いたんだろうな。
彼女はどこか懐かしそうな顔をしていた。
反応は少し息を吐いた程度で、他は無かった。元とはいえ柱だったのだ。
あの子のその場凌ぎの誤魔化しくらい、簡単に見破ったのだろう。
まるで姉妹のようだ。
その話をしたら、彼女は意外にも少し寂しそうな表情をしていた。
そして彼女は、また息を小さく吐いた後、ようやく小さい口を開いた。
それは擁護だった。
面白いなぁ、この子。
ここまで言うと、彼女はなんと柔らかい表情をした。
彼女は返事をしなかった。
柔らかくなった表情のまま、僅かに瞳を閉じた。
そう言うと、彼女はやや驚いた表情をして、ようやくまともにこちらを見た。
その時、彼女の動きが止まった。累君の考えが理解できないのかな。
少し間を空け彼女はこう言った。
恐怖でもない。絶望しているわけでもない。
それはただ純粋に軽蔑しているだけの『瞳』だった。
この時、自分の中である気持ちがのめり込んだ。
一時の、純粋な興味であった。
そしてその場を数歩だけ離れ、一回だけ振り向きこう言った。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。