朝、目が覚めた瞬間
世界が、少し遅れて動いた
天井を見ているのに、焦点が合わない
何秒かかけて、やっと現実に追いつく
遅れて、痛みが来る
鈍い
でも、確実に奥を掴まれているような感覚
慣れてきているはずなのに
今日は、違う
目を閉じる
呼吸を整える
__行ける
そう思い込むまで、時間がかかる
身体を起こす
床に足をつけた瞬間、少しだけふらつく
もいない部屋で、声に出す
言葉にしないと、崩れそうだった
外に出る
風が当たる
それだけで、少し楽になる
でも
歩き出して、すぐ分かる
距離が、遠い
前は何も考えずに歩けていた道
今は、一歩一歩がやけに重い
信号で立ち止まる
ぼんやりと、人の流れを眺める
普通に歩いてる人たち
笑ってる人
急いでる人
その中に、自分がいない感じがする
言葉にしても、何も変わらない
青に変わる
渡る
途中で、少しだけ視界が歪む
立ち止まりそうになる
でも
進む
進まないと
中庭に着いたとき
息が、少し荒かった
ベンチ
まひなが、いる
その姿を見た瞬間
さっきまでの世界が、少しだけ元に戻る
輪郭が、はっきりする
その声に、ちゃんと現実に引き戻される
それだけで、十分だった
隣に座る
距離が近い
でも、触れない
触れたら、何かが崩れそうで
しばらく、何も話さない
風が通る
葉が揺れる音
遠くの声
その中で
まひなが、少しだけこちらを見る。
責める言い方じゃない
確認するみたいな、静かな声
曖昧に返す
それ以上は、言えない
まひなは、それ以上聞かない
でも
その沈黙の中に、“分かってる”がある
しばらくして
指先に、少しだけ触れる感覚
まひなの手
ゆっくり、重なる
小さく呟かれる
自分でも気づいていた
体温が、うまく保てていない
軽く返す
強がりが、自然に出る
まひなは何も言わない
ただ、指を少しだけ強く絡める
逃げないように
確かめるみたいに
そのとき
ふっと、音が遠くなる
視界が、白く滲む
息がうまく吸えない
でも
離したくなくて
手だけは、握ったままにする
まひなの声
近い
でも、少し遠い
その言葉で、無理やり焦点を戻す
顔を上げる
まひなが、すぐ近くにいる
真っ直ぐ、こっちを見ている
その目が
少しだけ、怖い
全部、見抜かれてるから
断定
問いじゃない
否定しようとして
言葉が出ない
代わりに
笑おうとする
けど、うまくできない
やっと出たのは、それだけ
まひなが、ほんの少しだけ息を吐く
それ以上は言わない
でも
その「そっか」は
諦めじゃなくて
“分かった上で、何も言わない”音だった
その優しさが
やっぱり、きつかった
しばらくして
身体の感覚が、少し戻る
音も、ちゃんと聞こえる
視界も、安定する
でも
もう、誤魔化せない
まひながこっちを見る
言葉を選ぶ
慎重に
その一言で
まひなの表情が、変わる
一瞬だけ
ほんの少し
でも、はっきり
すぐに返される
強い声
お願いじゃない
命令みたいな言い方
その奥に、必死さがある
答えるしかなかった
でも
その“うん”が
少しだけ、空っぽに感じた
帰り道
手の感触が、まだ残っている
でも
それ以上に
さっきの“もし”が、頭から離れない
小さく呟く
空を仰いで、手を伸ばす
青空を掴めずに空を切る
気づいてないふりなんてもう、出来ない
終わりが
確実に、近づいている













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。