🧡side
先輩の冬期講習が終わる時間から1時間経った21時半を近くなっても、先輩は公園に来なかった。連絡もないし既読もつかない。そもそも僕が今日空けておいてって言わなかったのが悪いんやけど…
気がつくとぱらぱらと雪が降ってきた。初雪を喜べるはずもなく、プレゼントとケーキを守らなきゃって、雪を凌げそうな場所を探す。幸い、少し先に屋根で覆われたベンチを見つけたから、移動しようと腰をあげてケーキの箱を掴んだ。
かじかんだ手からケーキの箱が滑って地面に音を立てて落ちる。少し箱を開けて中身を確認すると中のケーキは2つとも崩れていた。
さっきまで先輩のことを考えていて忘れかけていたのに、今になってバイト先での失敗やクレームが頭に浮かんでくる。動きが遅いとかこれじゃないとか……そんなのはいつもやけど、今日は西畑先輩からの香水が甘くて気分悪いってお客さんに言われちゃった。
先輩のお誕生日もうまく祝えないし、涙で滲んでケーキの箱に描かれたお店のロゴが歪んで見える。
…もう帰ろう。先輩が来てくれたとしても、こんな失敗続きなんかじゃ、ちゃんとお祝いできひん。
公園の入口の方から声がして、顔を上げると焦った様子の西畑先輩と目が合った。自転車をその場に倒した先輩は全力疾走で僕の方に向かってくる。
ベンチの前で地面に膝をついて呆然としてた僕を、強い力で抱きしめてくれる先輩。僕は安心感で涙が止まらなくなった。
体を少し離して先輩を見つめてそう言うも、複雑そうな顔を浮かべた先輩にまた強く抱きしめられる。
ごめんって何度も繰り返す先輩の背中を優しく叩く。
そう伝えると、ますます先輩の腕の力が強くなる。身体を離そうとしても、倍くらいの力でぎゅっとされるから、なかなか離せない。
そう言うとようやく腕の力が緩くなった。ちょっとだけ涙を浮かべた先輩と目が合う。
僕の返事に、西畑先輩がふわっと笑う。ふと気がつくと、雪が止んでいた。嬉しいような、ちょっと寂しいような。
しょんぼりした僕の頭を、先輩がいつもみたいに優しく撫でてくれる。
その言葉でプレゼントのことを思い出す。僕がプレゼントを出そうと立ち上がると、西畑先輩は地面に落ちたままのケーキに気がついてくれて、箱の中を覗いた。
優しく笑った先輩はまた僕を抱きしめる。さっき離れたばっかりやのに、甘えたさんなんやなって頬が緩んだ。
先輩がそっと囁くように言うから、顔の熱が全く引いてくれへん。
Happybirthdayのシールが貼ってある箱を先輩に渡すと、開けていい?って目を輝かせる先輩。可愛いなぁって思いながら先輩を見つめた。
そう言った先輩が僕にカメラを向けてシャッターを切る。
その言葉に僕の動きが止まる。先輩の好きなタイプは可愛い子やって言ってた。あまりに抽象的すぎるし、それだけじゃ確信なんて持てへんけど期待はしてええのかな…先輩は僕のこと、僕と同じ意味で好きでいてくれてるん?
好きって気持ちが溢れてくる。
お誕生日は僕の中でちょっと失敗しちゃったから、バレンタインの日に告白しよう。
やっぱ流星は可愛ええなぁってチェキの写真を見ながら目を細めて呟く西畑先輩の横顔を見つめながら、そう心に誓った。
誕生日のお話はこちらで終了です!🎂
続きは月曜日の17:00に投稿いたします😄
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!