第44話

38.先輩のお誕生日②
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2023/12/16 00:00
🧡side


先輩の冬期講習が終わる時間から1時間経った21時半を近くなっても、先輩は公園に来なかった。連絡もないし既読もつかない。そもそも僕が今日空けておいてって言わなかったのが悪いんやけど…
大西流星
寒い……
気がつくとぱらぱらと雪が降ってきた。初雪を喜べるはずもなく、プレゼントとケーキを守らなきゃって、雪を凌げそうな場所を探す。幸い、少し先に屋根で覆われたベンチを見つけたから、移動しようと腰をあげてケーキの箱を掴んだ。
大西流星
あっ……
かじかんだ手からケーキの箱が滑って地面に音を立てて落ちる。少し箱を開けて中身を確認すると中のケーキは2つとも崩れていた。
大西流星
なんでこうなっちゃうんよ……
さっきまで先輩のことを考えていて忘れかけていたのに、今になってバイト先での失敗やクレームが頭に浮かんでくる。動きが遅いとかこれじゃないとか……そんなのはいつもやけど、今日は西畑先輩からの香水が甘くて気分悪いってお客さんに言われちゃった。

先輩のお誕生日もうまく祝えないし、涙で滲んでケーキの箱に描かれたお店のロゴが歪んで見える。


…もう帰ろう。先輩が来てくれたとしても、こんな失敗続きなんかじゃ、ちゃんとお祝いできひん。
流星!!
公園の入口の方から声がして、顔を上げると焦った様子の西畑先輩と目が合った。自転車をその場に倒した先輩は全力疾走で僕の方に向かってくる。
西畑大吾
流星ごめん!!
ベンチの前で地面に膝をついて呆然としてた僕を、強い力で抱きしめてくれる先輩。僕は安心感で涙が止まらなくなった。
大西流星
……待ってた
西畑大吾
ごめん…ほんまにごめん!!
大西流星
……謝らんで大丈夫。来てくれたから。
体を少し離して先輩を見つめてそう言うも、複雑そうな顔を浮かべた先輩にまた強く抱きしめられる。
西畑大吾
強がらんでええから…もっと怒ってええから。
大西流星
ううん、そんなことできひん。
西畑大吾
……危ない目にあわんかった?
大西流星
うん、大丈夫。
ごめんって何度も繰り返す先輩の背中を優しく叩く。
大西流星
先輩、お誕生日おめでとうございます
西畑大吾
ありがとう。そのためにずっと待っててくれたん?
大西流星
うん、先輩が僕にしてくれたみたいに、僕もサプライズしたかったんです。
そう伝えると、ますます先輩の腕の力が強くなる。身体を離そうとしても、倍くらいの力でぎゅっとされるから、なかなか離せない。
大西流星
先輩…僕、先輩の顔見たいです
そう言うとようやく腕の力が緩くなった。ちょっとだけ涙を浮かべた先輩と目が合う。
西畑大吾
ずっと待ってて寒いやろ?お家送ろうか?
大西流星
まだ一緒にいたい。
西畑大吾
…それは俺も。でも寒くない?
大西流星
…先輩がぎゅってしてくれるから寒くない
僕の返事に、西畑先輩がふわっと笑う。ふと気がつくと、雪が止んでいた。嬉しいような、ちょっと寂しいような。
大西流星
雪、無くなっちゃった…
西畑大吾
降ってたの一瞬やったな
大西流星
先輩と初雪見たかった
しょんぼりした僕の頭を、先輩がいつもみたいに優しく撫でてくれる。
西畑大吾
じゃあ今度雪見に行こっか
大西流星
うん。あ、そうだ
その言葉でプレゼントのことを思い出す。僕がプレゼントを出そうと立ち上がると、西畑先輩は地面に落ちたままのケーキに気がついてくれて、箱の中を覗いた。
西畑大吾
美味そう!これ、誕生日ケーキ?
大西流星
うん、でも崩れちゃったからまた今度買ってきます。
西畑大吾
俺このケーキがいい。
買い直さんくてええよ。
大西流星
だめやよ、ちゃんとしたものあげたいの。
西畑大吾
これやって思い出やん。来年も楽しみにしとるから、今年はこれがええの。
大西流星
じゃあ来年はめーっちゃクオリティ高いの用意して驚かせます
優しく笑った先輩はまた僕を抱きしめる。さっき離れたばっかりやのに、甘えたさんなんやなって頬が緩んだ。
西畑大吾
流星が近くにいてくれるだけでええよ
先輩がそっと囁くように言うから、顔の熱が全く引いてくれへん。
大西流星
先輩、僕プレゼント用意したんです。
西畑大吾
え?クリスマスプレゼントももらったのにええの?
大西流星
クリスマスプレゼントと誕プレは別やから。
Happybirthdayのシールが貼ってある箱を先輩に渡すと、開けていい?って目を輝かせる先輩。可愛いなぁって思いながら先輩を見つめた。
大西流星
どうぞ。
西畑大吾
これって…チェキ?
大西流星
うん。すぐ使えるようになってます
西畑大吾
ありがとう
チェキのプレゼントってなんかお洒落やな
大西流星
僕と出かけた時これでいっぱい写真撮ってほしいんです。思い出にもなるし、サイズ感も可愛くないですか?
西畑大吾
可愛い。
そう言った先輩が僕にカメラを向けてシャッターを切る。
大西流星
えっ…僕…?
西畑大吾
1枚目は流星の写真が良かった。
大西流星
急に撮られたから絶対可愛くないよ…
西畑大吾
大丈夫、いつも流星は可愛ええよ
大西流星
いつも言ってくれるけど、先輩の中で僕ってそんなに可愛いポジションなん?笑
西畑大吾
うん。俺の中で1番可愛い、ほんまに殿堂入り。
その言葉に僕の動きが止まる。先輩の好きなタイプは可愛い子やって言ってた。あまりに抽象的すぎるし、それだけじゃ確信なんて持てへんけど期待はしてええのかな…先輩は僕のこと、僕と同じ意味で好きでいてくれてるん?

好きって気持ちが溢れてくる。
お誕生日は僕の中でちょっと失敗しちゃったから、バレンタインの日に告白しよう。

やっぱ流星は可愛ええなぁってチェキの写真を見ながら目を細めて呟く西畑先輩の横顔を見つめながら、そう心に誓った。





誕生日のお話はこちらで終了です!🎂

続きは月曜日の17:00に投稿いたします😄

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