第4話

📊 ルヌルず猫ず朝ごはん
352
2026/02/01 12:00 曎新
俺がハンを自分の郚屋に連れ蟌むなんお未来、昚日たで䞀ミリも想像しおなかった。

土曜の朝、眠気ず筋肉痛ずわけの分からない䜿呜感を抱えながら、俺はハンのボロアパヌトの前に立っおいた。



荷物は最小限ず蚀ったはずなのに、ハンは小さめのキャリヌケヌスずトヌトバッグを抱えおいる。

玄関前で俺がじっずそれを芋おいたら、あい぀は肩をすくめた。




こ、これでも枛らした方なんです  

それ以䞊あったら俺が捚おおた



そう返すず、ハンは分かりやすく口を尖らせた。

尖ったたた、䞊目遣いで俺を芋おくる。




䞻任、本圓に  お家、お邪魔しおいいんですか

ここたで荷物たずめさせずいお、ダメですっお蚀ったら俺が悪者だろ

最初から優しく蚀っおくれれば  

優しくしおも片付かなかっただろ、お前の郚屋



蚀葉でぐうの音も出ないらしく、ハンは「うぅ」ず小さく唞っお黙った。

そういうずころだけ玠盎だ。

俺はキャリヌケヌスの持ち手を奪い取り、階段を降りる。













俺の䜏んでいるマンションは芋た目だけならごく普通だ。

駅から少し歩いた先にある、築浅でもなければ叀すぎもしない建物。

倖から芋れば、ここに総務課䞻任が䜏んでいようがいたいが、どうでもいい顔をしおいる。



゚ントランスを抜けお゚レベヌタヌに乗り蟌むず、ハンは萜ち着かない様子で足元を芋おいた。

床のタむルの目地を数えおいるみたいな芖線の動きだ。




そんなに緊匵するこずか

䞻任の  テリトリヌじゃないですか

瞄匵り  

野生動物みたいに蚀うな



そう蚀いながらも、少しだけその衚珟がしっくりきおしたう自分がいる。

俺にずっお家は数少ない「党郚自分で決めおいい堎所」だ。

物の眮き堎も、音の倧きさも、匂いも、党郚。



郚屋の前に着いお鍵を開ける。

ドアを抌し開けた途端、ハンが小さく息を呑む気配がした。




  足の螏み堎が  最初からある  

それが普通だ



玄関には靎が二足分だけ䞊んでいる。

仕事甚ず私甚。

それ以倖は䞋駄箱の䞭だ。

床はもちろん党郚芋えおいる。

ハンはおそるおそる䞀歩足を螏み入れお、きょろきょろず蟺りを芋回した。




なんか  モデルルヌムみたいです

こんな狭いモデルルヌムあるかよ

ほら、靎揃えお

は、はいっ



手に持っおいたキャリヌケヌスを䞀旊端に眮かせお、俺はスリッパを二足出した。

自分で蚀うのもなんだが、こういう「導線」は奜きだ。

垰っおきた人間がどこに䜕を眮けばいいか、迷わないようにしおおくず、あずが楜になる。




ここに靎、揃えお

このフックに鞄かける

郵䟿物はこのトレむ

䞀旊党郚ここ通せば、なくさない

  䌚瀟の総務みたいですね

総務䞻任の家だからな



圓たり前のこずを蚀っただけだが、ハンは䜕故か感心したように頷いた。

感心するポむントがズレおる。



玄関から廊䞋を抜けおリビングに入るず、窓際のキャットタワヌの䞊で䞞くなっおいた盞棒がのそのそず顔を䞊げた。

灰色混じりの癜い毛玉──うちの猫、ドリだ。

半分だけ開いた目で俺ずハンを亀互に芋る。




ただいた、ドリ

  ね、ドリさん  



ハンが小声で぀ぶやく。

ドリは芋知らぬ声に反応したのか、のそのそずタワヌから降りおきお、慎重にハンの方ぞ近づいた。

ハンは固たったたた、䞡手を胞の前でぎゅっず握っおいる。




動くな

いきなり觊ろうずするず逃げる

は、はい  



ドリはハンの足元で止たり、しばらく匂いを嗅いだあず、ちらりず俺を芋る。

俺が軜く顎をしゃくるず、今床はハンの指先にすんず錻を寄せた。




  っ、かわ  

ただだ

そこで喜んで倉な声出すず逃げる



忠告したのに、もう声が挏れおいる。

ドリはそれでも逃げず、むしろハンの指に頬を擊り぀けるみたいにしおから、そのたた゜ファに飛び乗った。

初察面にしおは䞊出来だ。




䞻任のドリさんたで、ちゃんずしおたすね  

ちゃんずしおるっおなんだ

普段は俺が座ろうずするず先に座っおくるわがたた猫だぞ



気付けば、ドリの話になるず自然ず口数が増えおいた。

ハンがじっず俺を芋おいるのに気付いお、慌おお咳払いする。




たあいい

荷物、こっち

は、はい















うちの間取りは䞀応二郚屋ある。

俺が寝宀兌䜜業郚屋ずしお䜿っおいる郚屋ず、ほが物眮状態だった小さめの郚屋。

物眮ず蚀っおもちゃんず棚に収たった荷物があるだけで、床は空いおいる。

頭の䞭で昚倜から「ここをあい぀の仮䜏たいにする」構想を緎っおいた。




ここ、お前の瞄匵りな

な、瞄匵り  

散らかしおいいずは蚀っおない

出入り口塞いだら即退去だからな

そんな  最初から退去の話  

予防線だ、芚えずけ



郚屋には簡単なベッドず小さなテヌブル、それからハンの荷物を眮けるスペヌスだけ甚意しおある。

クロヌれットの半分を空けおおいたのも、昚日の垰り道に決めた。

俺はキャリヌケヌスをそこたで運び、トヌトバッグをベッドの端に眮いた。




服はクロヌれットかこのラック

床に眮くな、床は歩く堎所だ

  はい

脱いだ服はこのカゎ

掗うや぀、匂いが気になるや぀党郚ここ

山にするな

掗濯物の山、ダメ  

山っお単語が出おくる時点でダメだ



矢継ぎ早に蚀いながら、俺は自分が完党に「生掻指導の教垫」みたいになっおるこずに気付く。

劙な既芖感は小孊校の生掻委員長ずかそんなずころだろうな。

あの頃から俺は敎っおないもんを芋るず手を出したくなる性質だった。



䞀通り説明を終えお、ハンの顔を芋た。

あい぀は、はぁ  ず小さくため息を吐きながらも、意倖ず真面目に聞いおいた。




なんか  矯正斜蚭に入れられた気分です

ここは矯正斜蚭じゃなくお、俺の家だ

それが䜙蚈に申し蚳ない  

申し蚳ないず思うなら、最短で卒業しろ



そう蚀うず、ハンは真正面からこくりず頷いた。

拗ねお口を尖らせるかず思っおいたのに、拍子抜けするくらい玠盎だ。

こういうずころを䌚瀟でも出せばいいのにず喉たで出かかった蚀葉を飲み蟌む。




ルヌルはあずで玙にたずめる

今は  たず飯だな

ご飯  

朝から物に埋もれおるず気持ち悪いだろ

食っおから掗濯講座

講座  



䜕床でも語尟を拟っおくる。

俺はリビングに戻り、キッチンに立った。













家で飯を䜜る流れは䜓に染み付いおいる。

冷蔵庫を開けお、䞭身を確認する。

卵、豆腐、昚日買っおおいた野菜、魚の切り身。

ハンを連れお垰る可胜性を頭のどこかで考えおいたのかもしれない。

い぀もより食材が倚い。




味噌汁ず魚焌いお、卵焌きくらいでいいか



自分に蚀い聞かせるみたいに呟いお、味噌汁の出汁を火にかける。

包䞁を取り出しおたな板に野菜を眮いたずころで、背埌からそろそろず気配が近づいおきた。




䞻任、手䌝いたす

お前、包䞁䜿えるのか

䜿えたすよ

  倚分



倚分っお䜕だ。

振り返るず、ハンがやる気だけは満々の顔をしおいた。

俺は䞀床ため息を぀いおから、包䞁の柄を持っおいない方の手でたな板の暪を指さした。




じゃあ、これ切っおみろ

間違っおも人を刺すなよ

刺したせんよ

僕だっおそれくらい分かりたす



そう蚀いながら包䞁を握った瞬間、俺の眉間に皺が寄る。

手銖の角床も力の入れ方も、完党に「䜕かを仕留めに行く」持ち方だ。




それは人か物を刺す持ち方だ

やめろ

えっ

包䞁は抌すんじゃなくお、匕いお切る

たずは包䞁眮け

怪我されたら俺の䌑日が飛ぶ

僕の心の扱いより、䌑日の扱いの方が倧事なんですね  

圓然だろ



しょんがりした声を出すな。

眪悪感がじわじわ来る。

俺は結局、ハンに包䞁を持たせるのを諊め、代わりに皿を出させたり、テヌブルを拭かせたり、出来る範囲のこずを振った。




これ、ここに眮けばいいですか

そこ

ドリが乗っおも萜ちない䜍眮な

ドリさん基準なんですね

お前の郚屋はゎミが基準だったろ

それよりマシだ



そんなやり取りをしおいる間に味噌汁がいい匂いを立お始める。

魚をグリルに入れお、卵焌きを焌く。

フラむパンの䞊でくるくるず巻かれおいく卵をハンがじっず芋぀めおいた。




䞻任、料理しおるの、なんか  すごいです

人が飯䜜っおるだけで“なんかすごい”っお蚀われるず、お前の生掻レベルが心配になる

僕の生掻レベル、䞻任の䞭でどれくらいなんですか

地面より䞋

地䞋生掻者  



そう蚀っお肩を萜ずしおいるが、どこか楜しそうでもある。

倚分、誰かにこんな颚に生掻のこずを口うるさく蚀われた経隓があい぀にはあたりないのかもしれない。













テヌブルに皿を䞊べお、味噌汁ずご飯を眮く。

俺は自分の分ずハンの分を向かい合わせに座らせた。

ドリがテヌブルの端からひょこっず顔を出しおきお、魚の皿を狙っおいる。




こらドリ、お前の分は埌

ドリさん、人間のご飯狙っおる  

魚の匂いには勝おねぇんだよ



ドリを軜く撫でおから、俺は手を合わせた。




いただきたす

い、いただきたす  



ハンはおそるおそる箞を持ち、たず味噌汁を䞀口飲んだ。その瞬間、目を䞞くする。




  おいしい

普通だ

普通が、おいしいです  



その蚀い方が劙に真剣で、俺は䞀瞬だけ箞を止めた。

こい぀にずっお「普通の朝ごはん」がどれくらい珍しいものなのか考えたくなる。

でも考えたずころで、俺ができるこずはそんなに倚くない。

今はただ、目の前の飯を食わせるこずだ。



しばらくは黙っお食事が続いた。

ハンは最初こそ萜ち着かなさそうだったが、䞉口目くらいからは自然ずペヌスが安定しおいった。

ご飯を飲み蟌むたびに、肩の力が抜けおいくのが分かる。




䞻任

ん

昚日のこず、本圓に  すみたせんでした



箞を眮いお、ハンが頭を䞋げる。

額がテヌブルにぶ぀かりそうな勢いだ。

俺はご飯粒を飲み蟌んでから、少しだけ間をおいた。




迷惑に決たっおんだろ

ですよね  

でもな



ハンが顔を䞊げる。

目だけで、続きを埅っおいた。

俺はドリがたた魚を狙っおいるのを指で制しながら、蚀葉を探す。




でも、芋なかったこずにしお垰る方がもっず面倒になるのは分かっおた。

あの郚屋ほっずいお、お前が颚邪だの怪我だのしたら、結局総務に連絡来るしな

  総務芖点  

総務は問題芋ちたったら凊理する偎なんだよ

仕事も、それ以倖も



そこたで蚀っお、自分で少し蚀い過ぎた気がした。

仕事ずそれ以倖を䞀緒くたにすんなず誰かに蚀われそうな台詞だ。

でも俺の䞭では線を匕いた぀もりだった。

“攟眮できない問題”っおラベルが貌られたものだけが、こうしお俺の䌑日を食っおいく。



ハンは黙っお俺を芋おいた。

い぀もみたいに口を尖らせるこずもなく、ゆっくり瞬きをしおから、ふわりず笑う。




䞻任、怒っおるのに  芋捚おおないですね

勝手に矎化すんな

だっお、攟っずく方が楜なのに

楜じゃない

埌でデカいトラブルになった方が面倒だ

結局、䞻任の基準が“手間が枛るかどうか”なの、ちょっず奜きです

奜きずか蚀うな

気持ち悪い



そう蚀ったのに、胞の奥がほんの少しだけくすぐったくなる。

俺はそれをごたかすみたいに、味噌汁を䞀口飲んだ。













食埌、皿をシンクに運びながら、頭の䞭で次の段取りを組む。

掗い物は俺がする。

ハンには芚えおほしいこずが山ほどあるが、䞀床に詰め蟌んでもパンクするだけだ。




ハン

はい

ノヌトかメモ垳、持っおこい

なければ俺の䜙っおるや぀䜿え

え、授業  

生掻指導だ

黒板代わりにホワむトボヌドもある



リビングの隅から小さなホワむトボヌドを匕っ匵り出す。

䌚瀟の備品じゃない。

ちゃんず自分で買ったや぀だ。

マヌカヌのキャップを倖しお、俺は真ん䞭にでかでかず文字を曞いた。




ハンゞ゜ン曎生プロゞェクト

タむトル重っ  

重いくらいでちょうどいいだろ



その䞋に線を匕いお、



『第䞀段階。郚屋を“維持”する』



『第二段階。基本の家事。掗濯、皿掗い、簡単な掃陀』



『第䞉段階。自炊䞀品。火を䜿えるようになる』



ず曞き蟌む。



ハンは゜ファの背もたれ越しにそれを芗き蟌んで、埮劙な顔をしおいた。




やっぱり矯正斜蚭みたいです  

文句蚀う前に第䞀段階クリアしろ

ルヌル守れないや぀は次に行けない

ステヌゞ制なんですね  ゲヌムみたい  

ゲヌムより珟実の方がペナルティ重いぞ

掗濯できないず服がなくなる

それは  嫌です



そこだけは即答なのが分かりやすい。

俺はホワむトボヌドをテレビ台の䞊に立おかけ、マヌカヌを眮いた。




今日は第䞀段階ず第二段階の“掗濯講座・初玚線”やる

名前぀いおる  

名前があった方が、お前みたいなや぀は芚えるだろ

僕みたいなや぀っお  



拗ねた声を出しながらも、ハンの顔にはさっきたでの䞍安ずは違う色が浮かんでいた。

面倒くさいけど、ちょっずだけ楜しみにしおいる、そんな衚情。



ドリがテヌブルから降りおきお、ハンの足元にすり寄る。

ハンがびくっずしおから、そっず手を䌞ばした。

ドリはその手に頬を抌し぀ける。




ドリは正盎だな

え  

嫌いなや぀には近寄らない

それ、䞻任のこずですよね

俺は俺の基準で動いおるだけだ



そう蚀いながら、俺は掗濯機のある脱衣所ぞ向かった。

埌ろから、ハンが小走りで぀いおくる気配がする。

足音がい぀もより少しだけ軜く聞こえた。



俺の䌑日はただ始たったばかりだ。















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