「いち、にっ、さん、しっ」
ダンスミュージックと共に床がキュッと擦れる音がする。
「ここで足を上げて。ここで手を回しながら〜」
ダンス教室?
周りは私と同じくらいの子が沢山いる。
一通りダンスの解説が終わると
「一旦休憩〜ちゃんと水分補給して10分後再開するよ」と言ったので休憩になった。
「リノさんマジかっこいい」
「わかる〜ダンスも超うまいし」
「前のダンス動画見た?」
「見た見た。てか再生回数すごかったよね」
「それなー」
あの先生はリノさんと言うらしい。リノさんは前で水を飲みながらスマホで何かをチェックしている。
ダンスって私、苦手なんだけど…
「さいかーい」
音楽が流れる。もちろんフリがわからない私はただ前の人のマネをするだけだ。自分の中でカウントしてみるんだけど難しい。
ここは手をぶん回して、でそれをしながら足を1、2って動かして…
運動神経皆無でリレーで迷惑かける系の人間からするとニコニコ笑いながら踊ってる人たちが眩しいよ…
なんとかダンスを踊ってちょっとだけ慣れて来たかな?と思う頃にレッスンは終わった。レッスンの最後には皆で締めくくりするみたいなんだけど
その締めくくりの会でリノさんはまず最初に
「あなただけ残ってくださーい」と言った。
私?
皆が私を見る。なんかその目線がちょっと怖いんだけど。
「なんの用事でしょうか…?」
「来週本番なのに大丈夫そう?」
「え」
来週本番?
「大丈夫ですよ…」
「レッスンの時についていけない感じがしたから個別練習しようと思ったんだけど」
「いえ…大丈夫です」
「じゃあちょっと踊ってみてよ。音楽流すから。」
リノさんは笑った。
なんだか…怖い???
なんとなくは覚えてる。だけど初心者には難しいんだよね…
ここは右手回しながら左手を前に持って来て、でそれから体をウェーブさせて…
しばらく私のダンスを見た後、リノさんは音楽を止めた。
「自分で練習できそう?」
「いや、出来ないですね…」
「じゃあ一緒に個別練習しよう」
「はい…」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!