あなたの名字あなたの下の名前s.
放課後の雄英は、昼間より少しだけ静かだ。
寮に向かう足音と、
校舎に残る生徒の声が、ゆっくり薄れていく。
私は職員室に戻る前、
廊下の窓際で、ほんの少し立ち止まっていた。
グラウンドでは、誰かが訓練をしている。
遠くで、爆発音と歓声。
―― ここは、前に進む場所だ。
分かっている。
分かっているのに。
後ろから、落ち着いた声。
振り返ると、
轟焦凍くんがそこに立っていた。
そう答えると、
轟くんは小さく頷いて、私の隣に立つ。
二人で、窓の外を見る。
気まずさは、ない。
会話がなくても、変じゃない距離。
突然の質問。
正直な答えだった。
彼は、視線を外さない。
逃げない。
踏み込まない。
その在り方が、妙に心に残る。
少しだけ、間を置いて聞いた。
轟くんは驚いた顔をしなかった。
即答。
胸の奥が、静かに鳴った。
――同じだ。
その言葉は、口に出さなかった。
そう言うと、
轟くんは少しだけ眉を寄せた。
置いてきていない。
その言葉が、
胸の奥に、深く沈んだ。
責めるでもなく、
同情でもなく。
ただの事実みたいに。
それ以上、何も言わなかった。
言えば、
傑の名前が出てしまう気がしたから。
彼は、そう言ってから、少しだけ間を置いた。
優しい言葉じゃない。
慰めでもない。
でも、それが――一番、残酷で、救いだった。
短く言う。
轟くんは何も言わず、
静かに一礼して、その場を離れた。
一人になった廊下で、
私はもう一度、窓の外を見る。
前を向く世界。
立ち止まったままの私。
それでも、
誰かはちゃんと、見ていた。
変えようとしないまま。
――それが、
轟焦凍という存在の、始まりだった。














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。