いつにも増してぎらついた蓮月ちゃんと、頑なに目を合わせようとしない侑くんと、楽しそうに携帯で撮影をする倫太郎くんと、固唾を飲んで見守る銀島くんと、こちらも楽しそうな治くん…
そんなカオスな現場に、面白い物好きの稲荷崎高校の皆が集まらないわけがなかった。しかも、バレー部というとても目立つ部活の二年生がわざわざ三年の教室に来るというあまりないイベントが同時に起こっているのだから。
しかし当事者たちは、ギャラリーが集まって騒がしくなってきたというのに、そんなことを気にする様子はない。
神経を張っていた蓮月ちゃんに対し、少し弱々しいような印象すら抱いてしまう様子の侑くん。蓮月ちゃんも違和感を感じたのか、少し空気が和らいだ気がする。
蓮月ちゃんだけでなく私にも用があるとは。てっきり蓮月ちゃんに謝りに来たのかと思ったのだけど、私にもとなると違うのかも。
この前の『ごんぎつね事件』で物理的にも大きすぎる謝罪を受け取ったのでもうお腹いっぱいだし。
ちらりと倫太郎くんの様子を伺うと、彼は相変わらず楽しそうな顔を浮かべて撮影し続けている。彼が一枚噛んでいるのは間違いないけれど、まだ全貌は読めない。
鍛えているのが見て取れる筋肉質な身体なのに、今の侑くんは存在感がとても小さい。私よりも小さいかも。いやそんなことは絶対ないのだけど。
三年のクラス。他学年でしかも上級生。おまけにこのクラスにはバレー部の天敵北くんがいる。確かに物凄いプレッシャーだろうなと私は笑ってしまいそうになる。
でも今侑くんがここに何をしに来たのか、それは何となくわかったから笑わないように表情筋に力を入れる。
侑くんにはきっと、周りのギャラリーなんて見えていない。それどころか、隣で大耳くんと昼食を取っていた北くんだって見えてないだろう。
それぐらい真剣な顔つきに見える。
凄い、綺麗な90度だ…というのは置いておいて、彼は頭を下げて誠心誠意謝罪を述べた。
私は何となく予想していたとは言え、まさかこんなに丁寧に謝られるとは思ってなくて…蓮月ちゃんはそもそも謝られるなんて思ってなかったみたいで、2人して呆気にとられてしまった。
周りの人達は「あの侑が謝った…」「明日は槍降るんとちゃう?」などとなかなか失礼なことを言っている。侑くんは一体どんな風に思われていたのか。
北くんは満足そうに頷き、大耳くんは少し微笑んでいる。祖父母のようだ。
面を上げて私を見つめた顔はあまりにもきょとんとしていた。本当に、「きょとん」と。
あれで許されると思っていなかったのだろうか。それならあの謝罪は良くなかったのでは?と思ったけれど口には出さなかった。彼の名誉の為と、後で北くんに怒られるのを防いであげた。
そんなことより肝心なのは蓮月ちゃんだろう。自然と全員の視線が蓮月ちゃんに注がれる。
蓮月ちゃんは未だぽかんとしていて、まさか本当に頭を下げて謝ってくるなんて思ってなかったとでも言いたげな顔だ。
蓮月ちゃんは義理堅い。
誠心誠意には誠心誠意で応えるような子だから、侑くんの誠心誠意の謝罪に、蓮月ちゃんも同じように頭を下げて謝罪した。
気づいたら倫太郎くんは携帯を仕舞っていて、満足そうに微笑んでいた。周りの人達もからかい半分だった顔が、少し真面目な顔になっていた。
かくいう私も自然と口角が上がっていたのだけど、仕方がないと思う。
プライドの高い侑くんと義理堅い蓮月ちゃん。でこぼこな二人だけど、案外お似合いだなぁなんて…この場にいる殆どの人が、多分そう思ったんじゃないかな。
照れ臭そうに握手してる二人を見て、そう思った。
🌟150⤴︎︎ ありがとうございます!
ごめんね投稿遅れた🙏🏻
体調は元通りです












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。