第6話

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2022/11/09 11:13
母
その順番の中に、ママも入れてもらえるかしら。
 凛は両手を広げて母のウエストを抱きしめた。
凛
ママも大好き!
 母は凛の頭を撫でで、私の正面の椅子に座った。
凛
パパも入れてあげよう! お兄ちゃんも!
 凛がはしゃいで言い、母は少し眉根を寄せながら紅茶のカップを持ち上げた。
母
祐樹は、いらないわ。いつ帰ってくるかわからないもの。全く、男の子なんて勝手なんだから。
 安心して! ただ思春期なだけだから!
 なんならあなたもそろそろ更年期だよ!
 
 そう思って母に笑いかけていると、凛が「どうしよう」という困った目で見つめてきた。
 姉としてここは助け舟を…
 それに、思春期という仕方のない原因で悪口を言われている兄のフォローを…
椎名 碧
椎名 碧
取って置いておいていいと思う。クッキーは数日で腐らないでしょ。兄が帰ってくるのがいつでも大丈夫。
 凛は不機嫌そうに息をついた。
母
食べないかもよ。最近、よく言うじゃない! こんなガキの食うもんなんて食えないって! 自分はガキじゃないとでも思ってるのかしら! まだ高校生のくせにっ!
 そう、私の母はヒステリック。
 近所では「優しい」と評判だが、家に来てみたらヒステリック。
 私たちに、いや、私にストレスを撒き散らす張本人。

 お前のストレスは私に飛んだ。
 だが私のストレスはどうすればいい??

 私、多分反抗期ないな。
 だって正当防衛だから。
 理不尽なのだ。
 
 怒らなくてもいいことにも怒鳴っていくスタイル。
 それに私が「それ違うよ」と言ってなぜそう言ったかを問うと、また怒鳴る。
 どうしようもない。
 そんな最悪な性格に火に油を注ぐのは、環境。
 父は毎日遅い。
 兄は思春期。
 私は今年受験生。
 
 …大丈夫だ、今年耐えれば大丈夫……なのか?
凛
お兄ちゃん、きっと食べるよ!
 凛がムキになった。
 おやおや、こうなったらもう止められない。
凛
ナプキンに包んで、机の上に置いて、お手紙をつけておくの。ママが一生懸命焼きましたって書いて、
食べたら美味しかったかどうか、お返事をくださいって。そばにメモも置いておくの! そしたらきっと食べて、お返事をくれるよ!
 どこから湧いてくるの、そんな自信…
 母もきっと承諾してくれないでしょうよ…

 そう思っていたが、母はクスッと笑って言ったのだ。
母
いい考えね。凛ちゃん、ママはあなたが大好きよ。
 …何英語の授業の翻訳みたいな。
 にしても、あの年齢の方が絶対生きやすいよね。

 小さければ小さいほど、周りから褒められるし。
 
 幼稚園でも私の場合居場所はあった。
 
 友達もいた。

 心は真っ白なんだ。

 今はもう、ね………

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