本作は、Part1『七人で生きる』第90話から続く物語です。
Part1のコメント欄にて「Bad Endのお話も読んでみたい」というお声をいただき、その想いをきっかけに、本作を書かせていただくことにしました。
物語の流れや登場人物の想いをより深く感じていただくためにも、ぜひPart1から読んでいただけると嬉しいです。
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集中治療室の前は、異様なほど静かだった。
天井の蛍光灯が白く照らし、消毒液の匂いが鼻につく。
一定のリズムで聞こえていたはずの機械音が、ふいに乱れた。
——ピピッ、ピピッ、ピピッ。
一つ、また一つ。
違う方向から、ほぼ同時に警告音が重なる。
和也が顔を上げた瞬間、扉が勢いよく開いた。
看護師たちが慌ただしく行き交い、次々と中へ吸い込まれていく。
白衣の裾が翻り、扉が再び閉まった。
返事はなかった。
丈一郎は無意識に拳を握りしめていたが、力が入らない。
恭平は状況が分からないまま、丈一郎の服を掴む。
丈一郎は答えられず、ただ前を見つめた。
——嫌な予感だけが、胸の奥に沈んでいく。
扉の向こうからは、声が聞こえる。
専門用語が混じり、何を言っているのか分からない。
ただ、必死なのだけは伝わってきた。
時間の感覚が、完全に失われていた。
誰かが座れと言った気もする。
水を持ってきてくれた気もする。
けれど、誰一人、口をつけなかった。
ただ待つしかなかった。
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どれくらい経ったのか分からない。
扉が、ゆっくりと開いた。
出てきた医師の顔を見た瞬間、丈一郎の背中を冷たいものが走った。
視線を逸らさない。
言葉を選ぶ前の、あの間。
4人は、同時に立ち上がった。
一拍、間が空く。
その言葉は、淡々としていた。
責任を果たすための、正確な説明だった。
声が、ひどく小さかった。
理解が追いつかない。
医師は視線を落とし、静かに頭を下げた。
その瞬間、和也の膝が崩れた。
床に手をつき、呼吸が乱れる。
泣き声というより、息がうまくできていなかった。
丈一郎も、その場に座り込む。
声が震え、最後まで言葉にならない。
大吾は立ったまま、動けずにいた。
唇を噛み、涙が無言で落ちていく。
恭平は、ただ泣いていた。
状況も、言葉の意味も、完全には分からない。
それでも、何か取り返しのつかないことが起きたことだけは分かっていた。
誰も答えられなかった。
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医師は必要な説明だけを残し、静かにその場を離れた。
白い廊下に残されたのは、4人だけ。
泣き声は次第に弱くなり、代わりに重い沈黙が落ちる。
丈一郎は床を見つめたまま、動かない。
長男として、何もできなかった現実が、じわじわと胸を締めつける。
和也は声を失い、肩だけが小刻みに震えていた。
大吾は壁にもたれ、天井を見上げる。
涙が止まらないのに、拭う気力もない。
恭平は、その場にしゃがみ込み、嗚咽を漏らす。
帰る場所は、もう同じ形では存在しなかった。
白い光に照らされた廊下で、
取り残された四人は、泣きながら立ち尽くすしかなかった。
時間だけが、容赦なく先へ進んでいく中で。
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Part1
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サブ垢で新作を書いたのでご覧いただけると嬉しいです❤︎












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!