うるさいニワトリの声で目が覚める。
今まで住んでいた場所ではニワトリの声なんて聞こえなかった。
うるさい。
何でこんなとこに来てしまったんだろう。こんな何もない田舎に。
せめてもの抵抗として返事はせずに制服に着替える。田舎特有のだっさい学ランに腕を通す。
まだ早いけど、電車が通ってないらしいからもう家を出るしかない。
都会だったらこんなことなかったのに。めんどくさい
お母さんの『行ってらっしゃい』をまた無視して家を出る。
古ぼけた街並み、無駄に生い茂った木々、赤錆びた電車が来ない線路と駅。
それら全てがこの地の寂しさを出している。
徒歩約1時間。学校に着いた。学校もまた、田舎特有の雰囲気を醸し出している。
ホームルームの時間、先生が入っていくと生徒は静かになる。
小さく一礼して先生が教えてくれた席に座る。
隣の席のやつが早速声をかけてくる。何だこいつ。
すんませーんと謝る気も反省する気もないような謝罪をしている。でも、先生も怒るわけでもなく笑っている。
クラスメイトの奴らも心底愉快そうに笑っている。
なんと、天宮紬というやつは学級委員長のようだ。
まじか。
こいつ、、馴れ馴れしすぎだろ。距離近いな。
田舎ってこんなもんか?
目は細められていて小柄な体をぴょんぴょんと跳ねさせて全身で嬉しさを表現している。
連れないなぁと天宮は苦笑する。
その姿を見て、少し可愛いと思ってしまった。
天宮はクラスメイトのところまで全力疾走をする。人って見かけによらないんだなぁと感じる。
天宮がどっかに行ったあと別のクラスメイトがやってくる。
あんなやつにそんな時代があったことに内心びっくりする。失礼だとは分かっていても意外だと思っている自分がいる。たかが10分しか一緒にいないのに。
俺は少し、この生活もいいなと思い始めていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!