大きく息を吐いて机に突っ伏す。
ようやっと今日の分の授業がすべて終わり、今まさにHRが始まろうとしているところだ。
HRが終わり挨拶を済ませれば、教室から出て、図書室へと向かう。
仕事が終わったあとに話したいことでもあるのだろうか。
なら、今言えば良いのに、と思ったが、冬弥のことだ。
きっと何か事情があるのだろう。
二人きりで話したいことがある、とか。
特にすることもなかったので、本棚から面白そうな本がないか漁ってみる。
手に取ったのは、200ページ程ある小説。
恐らく冬弥が仕事を終わらせるまでには読み終わらないと思うが、借りるのも少々面倒臭いので途中まででも、と近くの席に座り読み始める。
だが、元から私は集中力もあまりなく、小説など滅多に読むことなどなかった。
後々考えれば何故小説を手に取ったのか自分でもよく分からないが、そんな私が小説を数ページ読んだところで瞳が瞼の裏に隠れるまで、そう時間はかからなかった。
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あれからどれほどの時が経っただろう。
そろそろ起きなきゃまずいか、と思い顔をあげようとする。
が、ふと、誰かの足音がこちらに近付いてきてることに気づき、目は閉じたまま顔をあげるのをやめてしまった。
ふわっ、と頭に柔らかい感触がする。
冬弥に撫でられることはいつの間にか慣れてしまったので、抵抗もせず寝たまま撫で受ける。
思わず、はっ!?と声が飛び出しそうになったが、何となくでそのまま寝るフリを続ける。
そうすると、突然、唇に柔らかいものがふにっと当たる。
キスをされた、という事実は、数秒遅れて頭で理解した。
あまりの突然すぎる冬弥の行動に、思わず瞼を上げてしまった。
パチッ
目を開けた瞬間、冬弥と目が合う。
それも、これまでで一番の至近距離で。
最悪だ。
まさか目を開けた瞬間に目線が重なってしまうとは。
そう指摘されると、益々顔が熱くなる気がした。
自分の唇を、先程の感触を確かめるように指でなぞる。
しまった。
口走ってしまったようだ。
あんなことを言わなければ、キスをされた時、実は起きていたのだということを、冬弥に知られずにいれたかもしれないのに。
失敗だ……。
そう彼が口にした途端、顔を近付けられ、思わず顔を逸らしてしまった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。