「前から君のことが好きでした。」
これは、夢だろうか。
目の前がきらきらして見える。
ぱちぱちと瞬きをしたが、まだ私は公園のベンチに座って、温真くんの方を見ていた。
申し訳ないと言わんばかりの表情。
涙いっぱいの目で、これまでに無いほどの笑顔をして見せた。
急に涙が止まらなくなり、体の力が抜けていくようだった。
神様、ありがとう。
温真くん、ありがとう。
雪のように降ってきた奇跡が眩しくて、私は目を細めた。
公園にぽつりと置かれたベンチに座り、2人で笑い合った。
まだ、明日が続かないかなぁ。
温真くんと、おじいちゃん・おばあちゃんになるまで一緒にいたかったなぁ。
自然と涙が溢れて止まらなくなる。
永遠のように感じる日々は永遠ではなくって、いつか終わりが来る。
寂しさと嬉しさの気持ちが絵の具みたいに混ざり合って、複雑な気持ちだった。
残り時間が無くなって来ている。
そんな中、まだ太陽は呑気に私の体を照らしている。
「いこうか_______」
焦ることもなく、私たちはどこか知らない光の中を進んで行った。
体が暖かい空気に押しつぶされているようだ。
紺色のベールがかかったような宇宙に、静かな爆発が起こった。
「さようなら。」
小さな声だが、はっきりとそう、呟いた。
繋いだ手を、ぎゅっと握り締めた瞬間、意識が途切れた。
ある、5月の冬の事だった。
~完~
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。