橘「おーい菅原たち、どうかしたか?」
前方に進んでいた橘先輩が、そう声をかけてくれるも、私の頭は真っ白で…
国見「…ほんとは、一緒に帰ろうと思って待ってたんだけど。なんか、用事あるっぽいし…今日は帰るわ。」
そう英が呟いて、「明日、来るから」と言い残し、後ろを振り返ってその場を去っていった。
菅原「白布さん、青城のあいつと知り合い?」
あなたのあなた「………」
菅原「……白布さん?」
……ダメだ、ちゃんと英に聞かなきゃ。
あなたのあなた「……橘先輩に、少し遅れて行くって伝えてください。最悪、来なかったら衣装決めてもらっていいので。」
そう言い残すと、私は曲がり角へと消えていった英を追って走った。
菅原「ちょっ…白布さん!?」
菅原先輩の驚いた声色の、呼び止める言葉には聞こえないフリをして。
はあっ、はあっ……
あなたのあなた「…っ英!待って……!」
曲がり角を曲がると、少し先の電柱に寄りかかる英がいて…
国見「…やっぱり来た」
英は身体を起こすと、やっと追いついてゼェハァ…と肩で大きく息を吸う私に、いたずらっぽく笑った。
あなたのあなた「…なに、手のひらで踊らされてたって訳?」
呼吸が整ってきて、頭も回るようになると、ここで英が寄りかかっていたことと、さっきの言葉で自覚する。
国見「正解。あなたのあなたは昔っから単純だよね笑」
あなたのあなた「こっちは気が動転してたのっ!」
ようやく笑い終えた英は、珍しく口角を上げたまま言った。
国見「ちょっと、こっちで話してこ。」
あなたのあなた「…私、早めに切り上げないとなんだけど」
国見「…なら俺は明日でもいいけど。でも、気になったから今、ついてきたんでしょ?」
私は「…意地悪。」と少し睨みつけるように言うも、英はクスリと軽く笑い流した。
……今でさえ、英の手のひらにいる気分…。
不満をもんもんと溜めつつ英の後をついて行くと、少し広めの公園に着いた。
英は自販機の前で「何飲みたい?」と私に声をかけてくれるけど、「自分で買うからいい」と断った。
スクバからお財布を出そうと探していると、曲げた首の、がら空きな部分に冷たい缶が触れる。
あなたのあなた「冷たっ……!」
国見「ほら、これよく飲んでたじゃん」
放られたのは、小学生の頃よく飲んでたジュースで、よく覚えてるな…と思いながら「…ありがとう」と受け取った。
ベンチに座ると、無言の中でプルトップを引く。
お互い何も言わないまま1口ジュースを飲むが、6年の歳月が過ぎても、不思議と気まずさはなかった。
国見「あなたのあなたの母さん、元気にしてる?」
そこから切り込むのが懸命だと判断したんだろう。英はそう聞くと、私の缶ジュースを握る指に力がこもる。
あなたのあなた「……亡くなった。2年前、中2の秋に。」
国見「え。」
英は自分の飲んでいたジュースから視線を上げると、私の顔を凝視した。
その後、英が俯いて「…ごめん、」と弱々しく呟くから、私も「別に英が謝ることじゃないじゃん。」と言って、また1口ジュースを飲んだ。
国見「……なら、今は…?」
私に、どこまで触れていいのか探るみたいに、私の顔色を伺うように、静かに聞いた。
…本当は、心のどこかで分かってた。英に会った瞬間から。
英には、いつかバレるってこと________
あなたのあなた「お母さんの再婚相手と暮らしてる。」
英の表情から、色が消えた。
私は観念して開き直って顔を上に向けると、空を仰ぎ見た。
あなたのあなた「だから、白布は再婚した父親の姓。…もう、南瀬あなたのあなたはいないの。」
だから… また宮城に戻って来たって、英と会えたって、もう元には戻れないんだ。
…小学生までの関係性にも、元の私にも。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。