ビニールハウスの建ち並んだ向かい側、町営駐車場の無駄に広い敷地に、こんもりと1ダースくらいの人だかりができている。その中心でマイクを持って立っているのは、ひときわ背が高く堂々とした態度の、私の父だ。スーツの上半身にかけたたすきには、誇らしげに「現職・瀬谷としき」と書かれている。町長選の選挙演説なのだ。
『なによりも、集落再生事業の継続、そのための町の財政健全化!それが実現して初めて、安全、安心な町作りができるのです。現職として、ここまで進めさせていただいてきた町作りを完遂させたい、さらなる磨きをかけたい!そして新たな情熱でこの地を導き、子どもからお年寄りまで、誰もが安心して活き活きと活躍できる地域社会を実現していきたい! それが私の使命やと、決意を新たにしとります・・・・・』
その高圧的なほど堂に入った演説は、なんだかテレビで見る政治家の人みたいで、こんな畑に囲まれた駐車場と全然マッチしていない気がして、私は白々とした気持ちになる。
「どうせ今期も瀬谷さんで決まりやろ」
「だいぶ撒いてるみたいやしね」
聴衆から聞こえてくるそんな囁き声も、私の気持ちをさらに暗くする。
「おう、瀬谷」
「・・・・・・おはよう」
最悪。
私に声をかけてきたのは、苦手なクラスメイト三人組だ。高校でも派手系イケてるヒエラルキーに属するこのヒトたちは、地味系カテゴリーに属する私たちにことあるごとにちくちく嫌みを投げつけるのだ。
「町長と土建屋は」
と一人が言って、わざとらしく、演説中の父に視線を向ける。見ると、父の横にはユッティーのお父さんが満面の笑みで立っている。自分の建設会社のジャケットを着て、腕には「瀬谷としき応援団」と書かれた腕章を巻いている。そこから私、それからユッティーに視線を回しながら、そいつは続ける。
「その子どもたちも癒着しとるな。それ、親の言いつけでつるんどるの?」
ばかみたい。私は返事をせず、足を速めてその場を去ろうとする。ユッティーも無表情、マコちんだけが困ったように落ち着かなげ。
「あなた!」
突然、大声が響いた。ひっと、息が止まりそうになる。信じられない。演説中だった父親が、マイクを下ろした地声で、私に向かって声を張り上げているのだ。聴衆も一剤に私を見る。
「あなた、胸張って歩かんか!」
私は真っ赤になる。あまりの理不感に、涙まで流してしまいそうになる。駆け出したくなるのを懸命にこらえて、大股でその場から遠ざかる。
「身内にも厳しいなあ」
「さすが町長やわ」
聴衆がそんなふうに囁いている。
「うわ、きっつ」
「ちょっとかわいそう」
というクラスメイトの半笑いが耳に届く。
最悪。
さっきまで鳴っていたBGMは、いつの間にか消えている。BGMなしのこの町は、ただただ息苦しいだけの場所だったと私は思い出す。
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更新1年間もサボってごめんなさい!受験勉強の片手間に頑張るので許してちょ🥺













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!