あなたの下の名前サイド
お姉ちゃんに何も言わず、
家を飛び出て
「そういえばどこで死ぬかなんて決めてなかったな」
と、思いながら誰にもバレないように
静かに家を出る
自殺方法かぁ…
考えてなかったな
でもやっぱ飛び降り自殺かなぁ
飛び降り自殺するなら高いところにいかなくちゃ
そう思って
家からそう離れていない近くのマンションの
屋上に行った
階段を登りきった後の開放的な景色
飛び降り防止のフェンス
今にも沈みそうな夕陽
私も今から夕陽と共に沈むよ
今が一番幸せだから
もう十分愛されたよ
アイ、ありがとう
私に愛を教えてくれて
やっと今日、私は嘘という名の演技から
解放されるんだ
やっと、やっとだ
もう演技するのに疲れたんだよ
愛されるために演技して嘘をついて
これはこれで楽しかったけれど
ありがとう、みんな
ありがとう、お姉ちゃん
ありがとう、アクア
ありがとう、ルビーちゃん
ありがとう、フリル
ありがとう、
知らないほうがいいこともある
嘘も、演技も知らないほうがいいんだ、本当は
知らないほうがいいことを知ってしまった私は
本当に自分でも心底馬鹿だと思う
ばいばい、みんな
あなたの下の名前サイド〜fin〜
Noサイド
夕陽が地平線に沈む瞬間
一人の少女がマンションの屋上の
飛び降り防止フェンスに手をかけて
マンションから飛び降りようとしていた
その少女の目にはいつも宿っているはずの一番星は
なかった
一番星を映していたその瞳は
ただ、黒く、何も映っていなくて
何処までも深い底なし沼のようだった
黒くて何かが消えたような瞳と裏腹に
彼女は何故かスッキリしたような顔をしていた
何かに解放されたような顔
そんな瞳と顔をした彼女は、
と小さく呟いたあと、
フェンスに手をかけて飛び降りようとしたその時___
誰かが彼女の手を掴んだ
まるで、彼女に「死ぬな」と言うように
それに気づいた彼女はその誰かにこう言った
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!