早朝にスペイドの自室に飛び込んできたのは、華やかなお召し物を着たノエラだった。桃色のシルクに、金と水色の刺繡。袖は丁寧にフリルまで縫われていて、幼い子供の正装にはぴったりなデザインだった。
キッドは彼女の声を聞いて顔を上げる。ベッドの角に座って、隣で寝ていたスペイドを起こしてたところだった。
そう笑って褒めると、ノエラの目がぱっと明るくなる。その場でくるりと回ってみたり、鏡の前で刺繍を眺めたりと、随分ご満悦な様子。
スペイドはのそりとベッドから体を起こし、重い瞼を開いてノエラを見る。
ノエラがこんなにも興奮している理由。それは、ちょっとした「おでかけ」をするからだ。
さかのぼること数か月前。
アルフレッドが一通の手紙を手に訪ねてきた。金色の封蠟と見慣れた家紋ですぐに分かった。
他王国の王家からの手紙である故、スペイドはキッドに渡さずそのまま封を開け、中の便箋を抜き取ってゆっくりと読み始めた。内容は、手紙というより、招待状のようなものだった。送り主はあのネメリア王太子。
何かの都合で少し早まったのだろう。何もおかしいものはない。
だが他国の王族、ましてや王太子を呼ぶのは異例だ。ただでさえ国際関係は脆く慎重に行動するべきなのに、こうも堂々と招待するとはずいぶん自信と覚悟があるのだろう。
ネメリア王太子とは小さなころから面識はあるし、皇帝も快く承諾してくれたので断る理由もなく、目立たぬようにキッドとノエラだけ連れて出席を決意したのだ。
結婚式ならそれなりの服装を、とキッドの意向で仕立て屋にノエラの正装とスペイドの礼服を依頼した。急だったので修正の暇もなかったが、そんな必要もないくらい寸法は完璧で、見た目や肌触りも申し分なかった。さすが王族専属の仕立て屋というべきか。
礼服を着用する際、兜は被れない。素顔を見せないスペイドは目元を隠すなにかが常に必要なのだ。例えば、面隠しとか。
一刻ほど要したが、鏡に並ぶ三人はいかにも「家族」のように見えた。下手すればトランプ王国の王子とその連れにも見えないのかもしれない。都合がいい。目立たない方が穏便に事が進む。
馬車に乗り込むスペイドにキッドはふと口を開く。
昔から王位継承者は神に選ばれし者として王位に就くまでの間、穢れを遮断するために顔を隠す。
見せてよいのは生みの親、国王と王妃、穢れを持たないとされる10歳未満の子供、恩人、そして…
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。