12月の期末テストのあとに、ボクと田中さんと詩織先輩と響華とで話し合った話は、特に完結せずに終わった。
田中さんは戻った記憶のせいなのかどこか覇気がなかったし。
響華は戻ってこれたときの事実を知って感涙してるし。
詩織さんは…
という状態だったから、これ以上話し合うのは無駄と思って会話を終えた。
あれから、お互いがお互い、頭の中を整理するのに精いっぱいだったのだろう。特にその話題を口にすることはなかった。
ちょうど週末金曜日。実は学校は終業式も終え明日から冬休み。おまけにクリスマス直前という状況…
年の瀬も迫ってきた12月の終わり。ボクはいつも通り夜のアルバイトの時間、21時59分でタイムカードを切ると、そのまま作業を続けた。
とくに週末。込み合っていて後片付けは玲音さんだけでは終わらないくらいある。
裏方の作業は終えて…まあゴミをまとめて空き瓶空き缶をまとめておく。ボクができることと言えば、せめて閉店後の作業を店内部分だけにしとくくらいだ。
本当はお店の方の食器やグラスを洗いたいのだけども、まだお客さんがいるためにできない。一応ボクは高校生…18才以下の労働は22時以降禁止されている。
こうやって非公式に働いている人はたくさんいると思うけど、玲音さんは給与にしっかりとつけてくれるからありがたい。
片付けはほとんど終えている。
そのためここを終えたらバックヤードで待機するしかない…と言っても他のフロアレディが着替えに使う場所であるため、しばらくはここ、極寒の裏路地待機となる。
ボクの毎月の給与明細には時間外労働のほかに特別手当のような項目があり、そこに超過分の賃金が記載されている。
時々、給与よりも多い時があるんだけど、ボクにはありがたい…どうやって処理をごまかしているのかはわからないけど。
そんな裏路地に今日はお客さんが来ていた。
実姉である。
暇な時間。
『真祖の吸血鬼』であって『血溜め』と呼ばれた威圧、畏怖、異様にして陰惨の伝説級吸血鬼に忙しい時間などあるのかときになるのだけど、彼女はきちんと定職についているのだ。
言っていなかったけど、いや、アルバイトをしていることは伝えてあったけど、場所の事は伝えてなかった。
おそらく今回の事を一番よく知る人物。
田中さんの昔話でもあった、宵闇の処刑人さんの事も含めると、ほとんどの事情を知っている。
そして。
知っているにも関わらず、何も手を打っていない彼女の事である。
裏路地へ。
見計らったように。
見繕ったように。
そして見限ったようにう。
月の魔女と呼ばれた『月明皇后』の玲音さんが現れた。
ボクの言葉に反応したのか、響華の姿を見たからなのか、玲音さんは片頭痛でも起こったかのように右手で頭を抑えた。
ボクの反応がおかしかったようだ。
でも、営業中の店舗ほっといてここに来るなんてことはないだろう、普通は。
なにやら険悪なイメージ。
まあ、かつては敵同士だったのかもしれないし、一個前の魔女祝宴の夜は死者も多かったって聞くし。
旧知の友に会う感じじゃないんだろうな。
ボクも気を使ってしまう。
恩人と実姉。
どっちを天秤にもかけれない。比べて計ることなどできない。
そもそもが違う天秤だから。
かけるのと吊り合うのとが違うのだ。
腕をつかまれ、
引っ張られ、
そして抱きしめ、
頬ずりをする響華。
どうやらボクがバックヤードを片づけて、裏路地を掃除していた間に結構な時間が経っていたらしい。
なんか怖い。
2人とも怖い。
これからどんな話となるのか。
そして、ボクはアレから…あの放課後の話し合いから今の今まで、玲音さんにこのことは話していなかったのだ。
記憶障害の事。
田中さんの事。
魔女祝宴の夜の事。
『夜雀』の名を思い出した事。
宵闇の処刑人さんの事。
そして…ボクと響華の事を。
閉店。
どうやら、今日はここでお店閉めるらしい。
あれ、でもお客さん一人いるって言ってたのに。
っと返事したが、裏路地って思っていたよりも声が響く。
そのまま大通りのほうへ出て、正面の入口へ回る。
通りに面した電光板のスイッチを切って…と言ってもコンセントごと引っこ抜いて、入口横の光る看板は、入口入ったところのスイッチを切るだけで良い。
正面をもう一度確認して看板が消えたのを見てボクは扉を閉め、鍵を閉じた。
そこで玲音さんの声が聞こえた。
表のゴミ。
つまりは帰るお客さんが、タバコやティッシュや、そのほか、なんかを店の前に捨てて帰るのだ。
泥酔酩酊で残った曖昧な記憶と、鈍った判断で、もしかしたら帰巣本能から来る一種のシルシを残して帰りたいのかもしれない。
ヘンゼルとグレーテルと同じ心理。
聞こえるように言ったけど、返事はない。
ボクは表にまわって、入口横のほうきとちりとりであらかた掃除して戻る。
っと言い、店内のドアへと入る。
そこには…『真祖の吸血鬼』状態の響華が、琥珀色のウイスキーロックをこくん、と口付けている姿が目に入った。
カウンターの席。響華の横の椅子をポンポンと叩く。
少し悩んだ。
飲み物は…外が寒かったから特にほしくはなかったし、でもなんだか今日は良い雰囲気だった。
と言って、手慣れた手つきでロックグラスを取り出す。
大きい氷塊。
入れてくるくると回し、マドラーで抑えて溶けた水を捨てる。
そして、黒く、四角い瓶からゆっくりと琥珀色の液体を注いでいく。
っと言いながら、また一口運ぶ。ふぅ、っと一息ついた。
渡された液体。
琥珀色…は何回も伝えていると思うけど、水よりも少しトロっとしている。店内の淡いライトに照らされた、ギラギラと光沢がある。少しずつ溶けていく氷に反射して、宝石のようにキラキラとしていた。
香り。香しい。上がってくる匂いに果物みたいな甘い香りがする。
口へ運ぶ。
舌の上。しびれるほどのアルコールを感じるがどこかマイルドだ。確かに少し煙臭い。けれどよりいっそう、甘い香りがする。
シナモンとかバニラとか、ああいう甘ったるい感じの香りだ。
飲み込む。
鼻を抜けるアルコールに同じ香りを感じる。煙臭い感じはしたけど、後味はそれほどじゃない。
しかし、濃い。
これ…お酒を普段飲んでいる人が飲むお酒だ。
っと言ってお水が出てくる。
響華がアゴでクイっとボクの後ろを示した。
ボクは恐る恐るそちらを見る。
床。
かと思ったら、よく見たら輪郭が見えた。
人の形。
酔い潰れた人の形。
このパターンはいつものパターンだ。
見慣れた光景。
そしてボクは初めての響華に教えるのだった。
酔い潰れた斬撃の剣舞。
田中安は今日も絶好調である。

















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!