第4話

#3 赤の勇者
23
2026/07/22 23:00 更新




あの日から、十年の時が流れた。
夕暮れの赤の街は、幼い頃と変わらず、夕焼けに染まっていた。
けれど、その景色を見つめる少年は、もう子どもではない。
シルクロード。
十七歳。
赤の街では、一人前の大人として認められる年齢だった。
両親を亡くし、兄が姿を消してからも、シルクはこの街で生きてきた。
剣を振るい、旅人や傭兵から外の世界の話を聞き、時には危険な依頼にも挑んだ。
すべては、いつか街を出る日のため。
兄を探しに行ける日を、ずっと待ち続けていた。
 
その日の夕方。
シルクは家の奥にある、誰も立ち入らなくなった古い書庫を片づけていた。
棚には、埃をかぶった本が何冊も並んでいる。
幼い頃は怖くて近寄れなかった場所も、今では静かな思い出のようだった。

𝖲𝗂𝗅𝗄 𝖫𝗈𝖺𝖽
......こんな本、あったのか

一冊だけ、革張りの装丁をした古い本が目に留まる。
表紙には、かすれた文字。
 
『女神と竜と勇者』
 
見たこともない題名だった。
シルクは埃を払い、ゆっくりとページをめくる。
そこには、花の女神と無色の竜の戦いが記されていた。
幼い頃から何度も聞いた昔話。
けれど、その本には、紙芝居では語られなかったことまで書かれていた。
女神に選ばれし者。
世界を救うために剣を振るう者。
勇者。
シルクは夢中でページを読み進める。
やがて、一枚の折り込みのようなページが現れた。
そこには、掠れてほぼ読めないが歴代の勇者たちの名が記されている。
初代勇者。
その子。
さらに、その子孫。
長く続く系譜の最後へ視線を滑らせた、その時だった。
シルクの手が止まる。

𝖲𝗂𝗅𝗄 𝖫𝗈𝖺𝖽
......え

そこにはっきりと記されていた姓は、自分の家のものだった。
信じられず、もう一度見返す。
間違いない。
祖父の名。
曾祖父の名。
そして。
 
最後に記されていたのは、自分自身の名前だった。
 
シルクロード。

𝖲𝗂𝗅𝗄 𝖫𝗈𝖺𝖽
......俺、が......勇者?

胸が、大きく脈打つ。
昔話の中だけの存在だと思っていた勇者。
それが、自分だったなんて。
本を握る手が震える。
その時、不意に兄の言葉が頭をよぎった。
 
 
......あぁ
そうだな
 
 
幼い日の、あの短い返事。
兄は、この本の存在を知っていたのではないか。
だから何も言わなかったのではないか。
そして、兄はこの真実を追って街を出たのではないか。
点だった記憶が、一本の線につながっていく。

𝖲𝗂𝗅𝗄 𝖫𝗈𝖺𝖽
兄ちゃん......

自然と、その名がこぼれた。
もう迷う理由はなかった。
兄を探すこと。
勇者としての宿命を知ること。
その答えは、この街の外にある。
シルクは部屋へ戻ると、お気に入りの赤い上着を羽織った。
胸元には、幼い日に兄から贈られたペンダント。
腰には、武器屋の店主が成人祝いとして打ってくれた剣。
どちらも、大切な人との思い出だった。
玄関の扉を開ける。
見慣れた赤の街が、夕焼けに照らされている。
シルクは振り返り、小さく家へ頭を下げた。

𝖲𝗂𝗅𝗄 𝖫𝗈𝖺𝖽
行ってくる

返事はない。
それでも、その言葉は確かに家族へ向けたものだった。
そして空を見上げ、静かに笑う。

𝖲𝗂𝗅𝗄 𝖫𝗈𝖺𝖽
兄ちゃん
𝖲𝗂𝗅𝗄 𝖫𝗈𝖺𝖽
待ってろ
𝖲𝗂𝗅𝗄 𝖫𝗈𝖺𝖽
今度は俺が、あんたを見つける

一歩。
また一歩。
赤の街を背に、勇者の血を継ぐ少年は歩き始める。
その旅が、世界の真実を知る旅になることを。
この時のシルクは、まだ知らなかった。




〈人物紹介〉
シルクロード
役職:勇者
武器:剣
目的:行方不明の兄を探すこと。そして、自らに受け継がれた勇者の宿命を知ること




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