普段は寝起きのいい狛治も 、
流石に昨日は泣き疲れたらしい .
大きく欠伸をして伏せている眼のまま
顔を洗いに行った .
いつもと変わらない朝 .
ただ 、 前より声の色が褪せていて 、
用意する食事の量が減っただけ .
二人で手を合わせて「いただきます」をする .
食べ物に感謝をしろとよく師範が言っていた .
朝起きたら身支度を整える .
その後にご飯で 、 終わったら鍛錬 .
いつもと同じで変わらない習慣 .
辞めてしまったら 、 本当に二人が
いなくなったんだって認めてしまうみたいだった .
狛治が洗い物をしてくれている間に
道場の掃除をする .
廊下 、 庭 、 門前 、 師範の部屋 、
恋雪さんの部屋 、 格闘場 .
全て手を抜くことなく隅々まで .
掃除を終えて墓石に手を合わせようと外に出ると
先に素流が刻まれた背中があった .
私を捉えた瞳は酷く濡れていた .
堪えることもなく頬に一筋走っている .
大切な人たちが毒殺されたなど 、
やはり一夜で受け止められることでは無いのだ .
狛治を咎める訳でもなく 、 また慰める訳でもなく
静かに横にしゃがみこんで手を合わせる .
しばらくの間手を合わせて 、
先に私が立ち上がった .
格闘場にいく 、 と言い残して
師範に教わった型を繰り返し練習する .
「もう教えることは無い」
たしかにそう言われたけど 、
二度と聞くこともできないなんて
そんなのあり?
鮮明に覚えている .
暖かい背中が段々と冷えていくあの感覚 .
離さずいてくれた手が脱力した瞬間 .
最後まで恋雪と狛治と私のことを考えていて 、
すごくすごく優しくて強い人だった .
温度が灯ることも力が込められることもない .
今後なにかを思うことすら叶わない .
それを今更ながらに痛感した .
大切な人たちがいなくなっても
なんでもないと変わらないふりをしてくれる .
変わらない優しさを持つ狛治が大好きで 、
時が経っても諦められずにいた .














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。