第12話

12;変わらない人
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2025/08/03 05:00 更新





あなた 
 おはよ . 
 
 狛治
 狛治
 …… はよ . 










   普段は寝起きのいい狛治も 、

   流石に昨日は泣き疲れたらしい .

   大きく欠伸をして伏せている眼のまま

   顔を洗いに行った .

   いつもと変わらない朝 .

   ただ 、 前より声の色が褪せていて 、

   用意する食事の量が減っただけ .










 狛治
 狛治
 先食べてて良かったのに . 
 
あなた 
 んー … 一緒に食べたいなって . 
 
 狛治
 狛治
 … そうかよ . 










   二人で手を合わせて「いただきます」をする .

   食べ物に感謝をしろとよく師範が言っていた .










あなた 
 ご飯食べたら何するの? 
 
 狛治
 狛治
 鍛錬 . 
 
あなた 
 そうだよね . 










   朝起きたら身支度を整える .

   その後にご飯で 、 終わったら鍛錬 .

   いつもと同じで変わらない習慣 .

   辞めてしまったら 、 本当に二人が

   いなくなったんだって認めてしまうみたいだった .










 狛治
 狛治
 いいよ 、 洗い物俺やる . 
 
あなた 
 そう? …… ありがとう . 










   狛治が洗い物をしてくれている間に

   道場の掃除をする .

   廊下 、 庭 、 門前 、 師範の部屋 、

   恋雪さんの部屋 、 格闘場 .

   全て手を抜くことなく隅々まで .

   掃除を終えて墓石に手を合わせようと外に出ると

   先に素流が刻まれた背中があった .










あなた 
 …… 狛治? 










   私を捉えた瞳は酷く濡れていた .

   堪えることもなく頬に一筋走っている .

   大切な人たちが毒殺されたなど 、

   やはり一夜で受け止められることでは無いのだ .

   狛治を咎める訳でもなく 、 また慰める訳でもなく

   静かに横にしゃがみこんで手を合わせる .










あなた 
 師範は忙しそうだったし 、 
 恋雪さんも苦しい時期が長かったから 
 … 今 、 たくさん休めてるといいね . 
 
 狛治
 狛治
 … そうだな . 










   しばらくの間手を合わせて 、

   先に私が立ち上がった .

   格闘場にいく 、 と言い残して

   師範に教わった型を繰り返し練習する .

   「もう教えることは無い」

   たしかにそう言われたけど 、

   二度と聞くこともできないなんて

   そんなのあり?










あなた 
 しはん … っ 、 










   鮮明に覚えている .

   暖かい背中が段々と冷えていくあの感覚 .

   離さずいてくれた手が脱力した瞬間 .

   最後まで恋雪と狛治と私のことを考えていて 、

   すごくすごく優しくて強い人だった .

   温度が灯ることも力が込められることもない .

   今後なにかを思うことすら叶わない .

   それを今更ながらに痛感した .










 狛治
 狛治
 … 組手するか? 
 
あなた 
 … うん 、 そうしよ . 










   大切な人たちがいなくなっても

   なんでもないと変わらないふりをしてくれる .

   変わらない優しさを持つ狛治が大好きで 、

   時が経っても諦められずにいた .





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