第4話

魚人空手の名人
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2025/08/14 08:28 更新


第三話 魚人空手の名人



青く晴れた海の上、バギーはふらふらと港町を歩いていた。

「ちくしょう……こんな辺境の島にまで、オレ様が来るなんてな……」

彼は最近ついていなかった。シーザーに巻き込まれた騒動から逃げ出し、エネルとも奇妙な出会いを果たしたばかりだが、食料もお金も尽きかけていた。そんなときに限って、港の食堂の香ばしい匂いが鼻をくすぐる。



「……腹減った……」

思わずよだれを垂らしながら、ふらつく足取りで路地に入ったその瞬間――。



ドゴッ!



「ぶぎゃあああああっ!?」



何が起きたのかもわからないまま、バギーの体は宙を舞った。まるで見えないハンマーで殴られたような衝撃。壁に激突し、地面を転がる。星が飛ぶような感覚に、彼は涙目で起き上がった。



「いってええええ……誰だ、オレ様に喧嘩売るやつは!?」



辺りを見回すが、そこには誰もいない。

だが次の瞬間、影のようにすばやく人影が飛び込んできた。



「大丈夫ですか!?」



透き通るような声とともに、少女が膝をついてバギーを支えた。

茶色の髪を肩で結び、赤い帽子をかぶった少女――革命軍のコアラだった。



「だ、だれだお前……」

「私はコアラ、通りすがりの者です。あなた、いきなり吹っ飛んできたけど……何があったんですか?」

「オ、オレ様はただ歩いてただけだぞ!? 絶対に何かに殴られたんだ……」



するとコアラは目を細め、周囲を警戒する。

「……魚人空手の達人が、この辺りで暴れているって情報があったんです」

「魚人空手ぇ!?」



バギーの顔が青ざめた。魚人空手と言えば、海で最も恐れられる武術の一つ。見えない水流で殴られたかのように吹っ飛ばされる――さっきの衝撃も、きっとそれだ。



そのとき、路地の奥からドボンと水がはねる音がした。



「見つけたぞォ、人間……」



水路から現れたのは、大柄な魚人の男だった。肌は灰色、腕には太いヒレのような突起。筋肉が隆起し、見るからに強そうだ。



「バギー、後ろに下がって!」

「は、はいぃぃぃ!?」



コアラはすばやく構えを取り、拳を握る。

「あなた、魚人空手の使い手ね……どうしてこの町を襲うの?」



魚人はニヤリと笑った。

「人間どもが魚人の縄張りに港を作った……それだけで十分だ!」



次の瞬間、彼の腕が水を切った。

魚人空手・唐草瓦正拳!



空気を通して水の衝撃波が飛ぶ。コアラはバク転でかわしたが、衝撃波は背後の家を粉砕し、バギーは慌てて頭を抱える。



「ひぃぃぃっ! やめろオレ様に当たるなぁぁ!」



恐怖で腰を抜かすバギーをよそに、コアラは真剣な表情で魚人と対峙する。彼女は革命軍で鍛えられた体術の達人であり、魚人空手も少しかじっていた。



激しい攻防が続く。魚人の拳が空を切るたびに、周囲の水や空気が爆ぜ、建物の壁が砕ける。

一方、コアラは軽やかに跳び回り、懐に飛び込んで蹴りを叩き込むが、魚人の分厚い皮膚は硬い。



「くっ……やっぱり一人じゃ厳しいか……」



そのときだった。壁際で震えていたバギーに、コアラが叫んだ。



「あなた、何かできることはないの!?」

「オ、オレ様に期待するな! オレ様は大海賊だぞぉぉぉ……でもぉぉぉ!」



その瞬間、魚人の目がバギーに向いた。

「大海賊だと? じゃあお前から沈めてやる!」



巨大な拳が振り下ろされる。



「ぎゃああああああああ!」



しかし次の瞬間、バギーの体はバラバラになり、魚人の拳は空を切った。

「な、なんだと!?」



バギーは体を飛ばして魚人の背後に回り込み、靴だけを蹴り飛ばす。

「くらえええええ! オレ様特製、足だけキーーック!」



予想外の攻撃に魚人はよろめいた。

その一瞬の隙を、コアラは見逃さない。



「はぁっ!」



彼女の跳び膝蹴りが魚人の顎を直撃し、巨体が水路に叩き落とされる。

激しい水しぶきのあと、魚人は意識を失って浮かんでいた。



静寂が訪れる。



「……た、助かった……」

バギーはヘロヘロになりながら、コアラの肩にしがみついた。

「オ、オレ様の華麗な作戦勝ちだな……」

「ありがとうバギーさん」



コアラは苦笑しつつも、敵を縄で縛り、革命軍に引き渡す準備をした。



こうして、偶然のような出会いから、バギーはまたも命拾いしたのだった。

彼は港町を離れる前に、こっそりコアラに言った。



「オ、オレ様は大海賊だ……また会ったら、オレ様のクルーにしてやるからな!」

「はいはい、元気でね、大海賊さん」



海風が吹く中、バギーはどこか誇らしげに胸を張った。

――が、財布は空っぽである



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