第4話

第三話
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2025/04/13 14:14 更新
LAN
ねぇ、いるま。お腹空いてない?お風呂入りたいとか、服着替えたいとか…色々整えたい…よね?
いるま
ん…ああ、そうだな…。これ、LANが着替えさせてくれたんだよな?ありがとう。
LAN
ううん、濡れたままだと気持ち悪いだろうな、と思って…。
いるま
まあ、そうだな…。もう乾いてるとはいえ、雨に濡れたままだし…。後、スマホも…。
LAN
おれの着替え貸してあげるからお風呂入ってきなよ!その間にご飯作っておくし、スマホも充電しておくからさ!
おれが笑顔でそう言うといるまは困ったように笑いながらも、口を開く。
いるま
じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな。…なんか、LANに情けないとこばっか見せてんな、俺…。
LAN
…気にしなくていいよ?いるまが困った時に頼れる人で嬉しい。あ、お風呂にあるもの自由に使っていいからね!ゆっくり浸かっていいからね!
そう言っているまを脱衣所に押し込んで、おれは一人になった部屋で壁に寄りかかり、そのままずるずると座り込む。
いるまが帰ってきたことが嬉しくてすっかり失念していたけど…今、おれ、いるまと二人きりなんだ…。しかも、いるまの秘密を知ってて…いるまが、おれのことを頼ってくれてる…。
言いようのない感覚に支配される。誰も知らない、おれといるまだけの…いや、正確にはいるまに触手を植え付けた人達も知ってはいるのだけど…おれといるま、二人だけの秘密…。
LAN
…ふふっ。いるま、何が食べたいかなぁ…。
一人、そう呟いておれは久方ぶりに料理を始めた。料理の腕は衰えているかと思ったけど、体が覚えているのが簡単な料理なら直ぐに作ることができた。意識したらおれもお腹が空いてきたので、いるまの分と一緒に自分の分も作った。
いるま
LAN。…風呂、ありがとう。
LAN
あ、お帰り、いるま!あったまった?
いるま
ああ…。
LAN
それなら良かった!ね、オムレツ作ったんだ、一緒に食べよ?
オムレツが並べられたテーブルを見て、いるまはおれをジッと見つめる。
LAN
いるま…?
不意にいるまの手がおれの頬に触れる。驚きから動けずにいると、いるまの手はおれの腕や腹部にペタペタと手を這わせる。
LAN
ちょ、ちょっといるま!?何して…!
流石に制止の声を上げると、いるまは顔を顰める。
いるま
…LAN、お前ちょっと…いや、かなり痩せただろ。
LAN
…え?
いるま
見ただけで分かるけど…触って確信した。不自然な痩せ方してる。…俺のせい、だよな?
そう呟くいるまは、俯いていたけれど、酷く悲しそうな声をしていた。
LAN
…いるまのせいじゃないよ。
おれの言葉にいるまは視線を上げる。
LAN
…確かに、最近ご飯食べてなかったのは本当。でも、それはおれがおれの意思で決めたこと。…だから、いるまのせいじゃないよ。おれがただ単純に、ご飯食べなかっただけ。
そう答えてもいるまの表情は晴れなかった。そうだよね、だっておれがご飯食べなかった要因はいるまがいなかったからだ。おれがなんと言おうと、いるま自身もそのことがわかってるんだろう。
LAN
…ご飯食べよ?折角あったかいの作ったのに、冷めちゃうよ?
いるま
…うん。いただきます。
いるまが一口オムレツを口に含んで咀嚼する。その様子をおれはただ見つめていた。
いるま
…美味い。
LAN
ほんと?
いるま
本当だよ。嘘ついて何の得になるんだよ。
そう言っているまは呆れたように笑った。その顔を見て、おれはようやくオムレツを口に含んだ。おれには何の変哲もない味に感じられたけど、いるまが美味しいって言ってくれたから、きっと美味しいんだろう。
LAN
…いるまさ、シクフォニとしてまた活動したいって思ってるんだよね?
いるま
ああ…。難しいかもしれないけど、俺にとってシクフォニは大事な居場所だったんだ…。
スプーンと皿の擦れる音と、いるまの低い落ち着いた声が響く。
LAN
…じゃあ、おれもそろそろ活動復帰しなきゃだね…。
いるま
…LAN、活動休止してたのか?
LAN
うん…。いるまがいなくなってから何も手に付かなくて…活動できるような状況じゃなくて…。
いるま
…ごめんな、LAN。俺、LANの生活滅茶苦茶にして…。
LAN
ち、違うよ!?いるまに責任を負わせたいとかそういうんじゃない!おれは、いるまが帰ってきてくれて嬉しい!!ただ、おれのメンタルが弱かっただけで…だから、いるまは悪くない…。お願い、いるまが自分を責めないで…?おれは、いるまと一緒に居たいの…。だから、お願いだから…。
無意識の内に涙が溢れてくる。もうあんな日々には戻りたくない。いるまが生きてるのか死んでるのかもわからないまま日常を過ごして、明日こそ死ねますようにと願う日々には戻りたくないんだ。
いるま
…LANの気持ちは嬉しいよ。でも、俺達は一緒にいるべきじゃないと思う。
LAN
なんで…?なんでそんな事言うの…?
絶望するおれに、いるまはスマートフォンの画面を見せてきた。
LAN
…いるま、これ…。
いるま
…俺、やっぱり化け物なんだよ。
“触手の生えた謎の生命体、人類を襲う!?”そんな見出しで綴られているネットニュース。その触手の生えた謎の生命体は、遠くから撮られた写真なのか、画質は悪いが、いるまと同じように背中から触手を生やしているように見える。
いるま
…多分、俺と同じ様に触手を植え付けられた人だ。確信があるわけじゃないけど、同じものだと思う。
LAN
で、でもいるまは人を襲ってないじゃん!職員を襲ったのは帰りたいって思いがあったからで…!
いるま
確かに今は制御できてるよ。でも、これもいつまで続くかわからない。何かの拍子でリミッターが外れて、LANを襲うかもしれない。…例え、殺さなくても、LANを傷つけてしまったら俺は正気に戻った時耐えられない。…正気に戻れるかもわからないし。
駄目だ。このままじゃいるまはまたおれの前から消えてしまう。また、あんな日々に逆戻りしてしまう。…嫌だ。それだけは、絶対に嫌だ。それなら。あんな孤独で何の為に生きてるのかわからない日々に戻るくらいなら。
LAN
…いるま、一緒に逃げよう。
いるま
は…?何言ってんだよ、LAN…。
LAN
おれは本気だよ。もういるまと離れ離れになりたくない。それでもいるまがおれとは一緒にいられないって言うなら…二人で駆け落ちしよ。
言葉通り本気だった。いるまと一緒に居られるならそれ以外の全てを捨てる覚悟があった。いるまは驚いた表情でおれを見つめていたけど、本気なのがわかったのか、真剣な表情になる。
いるま
…本気なんだな、LAN。
LAN
本気だよ。いるまの為なら、おれは全部捨てられる。いるまの為なら何でもできる。いるまさえ居てくれたら、それでいいの…。
いるま
…ごめんな、LAN。そんな選択させて。本当なら、LANは今まで通りシクフォニとして活動して…皆と一緒に幸せな日常を…。
LAN
ううん、いいの。いるまと一緒に居られることが、おれにとっての幸せだもん。
おれが笑顔でそう答えると、いるまに抱き締められた。
いるま
…ごめん。ごめんな…。ごめん、LAN…。
いるまの声は涙声だった。
LAN
…もう、なんでいるまが泣いてるの。大丈夫、今度こそおれは何があってもいるまから離れない。…ずっと、いるまと一緒に居るよ…。
ぎゅう、といるまを抱きしめ返す。いるまはずっとおれに謝り続けて、ずっと涙を流していた。…おれはそんないるまの背中を、ただただ擦り続けた。

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