「何も知らないくせに、都合良く彼におしつけようだなんてそんな────」
やっぱり……すごくむかつく………
18XX.XX.XX
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Tôt le matin. Le temps est si ensoleillé que c'est déprimant. Le souvenir d'hier soir est vague. Où se trouve cet endroit ?
手帳に短い文を書き記して閉じる。
薬品の匂いが鼻をつく、純白の清潔なカーテンで遮断されたここはおそらくどこかの医務室だ。ため息を一つ。傷は丁寧に手当てされており、私の服はいつの間にか病人が着るような清潔なものに変えられていて、昨夜着ていたドレスや私服はサイドテーブルにあった。確認すると持ち物も全てある、が………ペルソナが完全に壊れている。不可欠な部品は欠陥していないようだが、ネジが数本完全になくなっている。頭の整理がつかず、もう一度ベッドに横たわった。
一旦状況を確認しよう。私は昨夜、ヴァニタスを追って仮面舞踏会に侵入。突如呪持ちが発生し、それに対応にあたったが戦闘不能になり意識を手放した。それ以降の記憶はないが、幸い念の為起動させておいた自作の小型録音機の音声を聞き、ある程度の状況は把握。そして現在私は録音機で聞いたノエ・アルシヴィストという世間知らずの田舎者の発言に苛立っている。ということだ。
そして現在私の最優先事項は、ヴァニタスの捜索だ。
私は自分の衣服に袖を通して荷物を持ち、ペルソナの代わりにヴァニタスにもらったリボンを解いて鼻から顎にかけてを覆い、簡易的な調整器とも言えないもので応急処置をした。
空に”クモの巣“がある。ということはまだここは異界だ。
匂いを頼りに彼を探そうと試みるが、外気の匂いが邪魔をする。屋根の上に登りより高台から意識を嗅覚と聴覚に集中させると…人間の匂いがした。
全速力でその場を目指して走る。早く会いたい。会って謝りたい。自分が悪かった事も迷惑をかけた事も全部。それでもし…許してもらえたのなら……彼の優しく暖かい手で、頭を撫でてもらって「頑張った」という言葉が欲しいと思うのは、わがままだろうか。
彼の優しい匂いがする鐘塔に到着し、彼に声をかけようとしたが、彼の隣には
ノエ・アルシヴィストがいた。
胸が鋭い刃物に突き刺されたかのように痛む。
彼は、無駄に喋ろうとしなかった。ただただ眼下にある街を見下ろすのみだった。あれは多分、怒ってるんだな。するとノエは、しゃがみ込んで彼と目線を合わせた。
ヴァニタスは驚いたような顔をして、ノエを見た。正直私は諦めた。何に諦めたのかは明確には分からないが確かに、諦めた。
数秒の沈黙が流れる。
彼は立ち上がったが、未だノエと目線を交わらせる気はないようだ。
「 なにかを諦めたような顔をするのか…と 」
彼はノエの首を短剣で掻き切ろうと試みたが、ノエが彼の手首を掴みそれを阻止した。私は相変わらず二人に見つからないように、陰でただ傍観していた。
その瞬間、けたたましく鐘が鳴り響いた。そう、ここは鐘塔。つまり近距離に鐘があるということだ。二人は驚いた様子で耳を塞ぎ、しばらくして音が鳴り止むとヴァニタスがノエの先程の発言に対して反論しようとしたが再び鐘が鳴った。舌打ちをし、心底不機嫌そうに目を逸らす。まあ私はというと、当たり前に片耳の鼓膜が破れた。痛いがこのくらいの鈍痛どうってことない。外傷なんてどこが痛むか明確に分かるのだから問題ない。それよりも厄介なのは、傷一つ無いのに痛む胸だ。
それは…私の場所……
やめて
やめて
……やめて
それを聞いた彼は眉を顰めて笑った。
耳鳴りが酷くても、聞こえてしまうのが悔しかった。
とめどなく流れる涙で口元を覆っていた布が濡れないように、私はそれを外して静かに泣きじゃくっていた。泣きたいなんて自分でも思ってない。でも自然と溢れて止まらない。だって…分かってしまったんだ。自分が何に諦めたのか
私が諦めたのは「ヴァニタスの隣にいる」事だ。
悔しいけど、分かってた。私じゃ到底あんな言葉かけられない。ヴァニタスに必要なのはああいう奴なのに……私は見て見ぬフリをして、無理矢理にでも彼の隣にいたいがために、必要な言葉一つかけてあげられなかった。拒まれるのが怖かったから…でも、どうして……
何か一つ願っていいなら…もっと、もっと幸せになりたかった。曖昧だけど率直でどこまでもわがまま願いは、誰にも届かない。まるで本当に私だけ世界から切り離されたみたいに、虚しかった。
私はその場から逃げ出したくなって、走り去ろうと思ったが、ノエに腕を掴まれてしまった。すると二人は心底驚いたような顔をし、私を見た。
気まずさ故に彼らの顔をちゃんと見られない。すると、ヴァニタスが私を抱きしめた。何よりも嬉しくて…視界がぼやける。さっきの痛みも嘘のように消え、彼の優しい匂いが染みて、私を満たす。
ああ、ほらやっぱり。彼は優しいからこうやっていつでも心配してくれる。でも…優しくされればされるほど、私が彼を縛ってるんだと自覚して、すごく痛い。誰かに構ってもらえないと死んでしまいそうになるなんて私は愚かすぎる。こんなこと分かったところでどうにもできない、甘くて幸せな彼の優しさが大好きで、ずっと感じていたいから…だから…
もう少しだけで良いから、このまま何も気が付かない馬鹿のフリをしても許されるよね?
ヴァニタスはノエに席を外すように言うと、ノエは案外簡単に引き下がった。すると、彼が壊れそうなほど優しい瞳で私を見つめるものだから、涙が出た。
彼が私の頬に手を添え、涙を指で拭う。
幸せになるためなら
どんな事をしたって許されるよね?
idiotです。ようやく2人が仲直りできましたね。
4月になり新しい環境での暮らしが始まる方も多いと思いますが、皆様お身体に気をつけて新生活頑張ってください。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。