夕食を食べ、帰路を辿る頃になると既に外は真っ暗で見えるのは月の薄明かりだけだった。流石にこの時間帯を一人で歩くのは危ないから、と彼方くんが私のアパートまで付いてきてくれる事になり、少し気まずい空気の中、夜道を歩いている私たち。
先程のことがあったからか、どこか話しづらいのは彼も同じらしい。
あくまで真剣なトーンで彼がそう言うものだから、思わず間抜けな声が出てしまう。そんな私に気付いているのかいないのか、顎に手を当て彼方くんはまじまじと私を見つめ直して口を開いた。
全く、彼方くんはすっかりいつもの調子らしい。こんな彼の前で先程情けないくらいに泣いてしまったことも忘れて、思わずくくっと笑みが零れた。
__いや、もしかしてだけど。一通り笑ったところでふと思った。わざと、明るく振る舞っていてくれているんだろうか。空気の読めない彼方くんの癖に、無理して変な話題を持ち出すことで私の気まずい気持ちを楽にさせようとして?
最初は傲慢で偉そうで、いかにもなお金持ちのお坊ちゃんって感じで、嫌な奴だとしか思ってなかった。でも、真摯に謝罪してきて、友達になろうと言ってくれたあの日からだろうか。
実は誰よりも素直で真面目で努力家で、時々空気が読めなくて残念なイケメンで……でも優しい、本当の彼方くんに触れて、どんどん彼のペースに巻き込まれていって。それは、未央という大事な親友相手にさえ本当の自分を見せることが出来なかった臆病な私にとって、改革の大きな風だった。
お前だって俺にだけ冷たい癖に、と彼方くんが口を尖らせ拗ねた真似をする。
けれどそれも一瞬で、次の瞬間にはその横顔は何かを決意したような強い意思のあるものに変わっていた。
叶わない夢と分かっていても、心の何処かで家族の愛を欲していた。彼方くんのそんな独白は、みるみるうちに白い息となって寒空の中へ消えて行った。
彼方くんの頬が緩み、珍しく子供っぽいあどけなく無邪気な表情に変わる。
それとは正反対に私の顔はというと、真っ赤な林檎のように耳まで染まっていた。
そんなの、そんなの。
どうして私に言うんだか。これだから彼方くんは分からない。天然なのか、計算なのか……後者は無いのだろうけれど、今はどちらでもあってほしくない。
私のような人と、私の実家のような家庭を作りたいなんて。
プ、プロポーズみたいなものじゃないのか。これは私の恋愛経験が浅いから無駄にドキドキさせられてしまうだけ?
ああ、もう。
彼方くんはただの友達、なんだから───
───────
この時の私はまだ、自分のアパートのすぐ近くに親友の__彼方くんを誰より慕う大切な友達の実家があるなんて、気付いてもいなかったのだ。















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。