第19話

語彙力をフルに使いたい
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2023/07/19 12:29
どこまでも碧く澄み切った空に、

少女の綺麗な黒髪がなびく。


柔らかい微笑みとは裏腹に、

少女の瞳に映る少年は酷く焦っていた。


少女は目を伏せ、口を開く。

突如と訪れた風が、少女の声を淡く消した。


細い腕と薬が入った袋とを繋ぐ管が、

風に煽られて揺らめく。


再び目を開け、少年を見つめる。


少年も、少女の目を見つめる。


少年が震える声で言った。

どうして、と。
まだ諦めないで、と。


少女はゆっくり首を横に振る。

もう終わりなの、助からないよ、と。


自分の心臓に手を当て、弱い鼓動に力無く微笑む。

ね、もう助からないでしょ?

とでも言いたげな瞳が少年を射抜く。


少年の目にいっぱいたまっていた涙が、

はらはらととめどなく落ちていった。



「わたしに心臓をくれる人は…」

言葉をひとつひとつ大切に紡いでいく。


「わたしに心臓をくれる人は、あなたなんだよ」

それまで我慢していた涙が、一気に溢れ出した。


「わたしのために、死なないで」

「わたしの分まで、生きていて」

一度言い出した我儘は加速し、
どんどん彼女のあたたかな笑顔が崩れていく。


少年も負けじと言い放つ。

「きみだから、心臓をくれてやると思ったんだ」


「きみのためなら、死んだっていい」

「ぼくのために、君に生きていてほしい」







碧く澄み切った夏、病院の屋上。


フェンスを挟んで笑いながら泣く、
どこまでも優しく自分勝手な少年少女たちの

最後のひと夏。




少女たちにはもう、


夏は来ぬ。

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