楽しかったあの夜の帰り道から、さらに一週間が過ぎた。
容赦なく照りつけていた太陽の光が、
夕方になると少しだけ頼りなく傾くようになり、
風の中にほんのりと秋の気配が混ざり始める。
気づけば、長かった夏休みもあと残り三日。
宿題の山を前にして、
私は部屋の机で静かにため息をついていた。
そのとき、机の上に置いていたスマートフォンが、
小気味いい通知音を鳴らして震えた。
画面を見ると、クラスの男子生徒たちと登録している
グループメールに、一通のメッセージが届いていた。
送り主は、バーベキューのときにも調子よく場を
盛り上げていた佐藤くんだ。
「夏休み終わる三日前にみんなで手持ち花火しよ!
今日の夜、この前の駅前の公園に集合な!」
そのメッセージに、クラスメイトたちが次々と
[行く!][賛成!]とスタンプを返していく。
私は画面を見つめたまま、
少しだけ胸をドキドキさせていた。
またみんなに会える嬉しさと同時に、
私の頭に真っ先に浮かんだのは、
やっぱり陸くんの顔だった。
彼はこういう急な集まりに、ちゃんと来てくれるだろうか。
あの公園での約束を、覚えてくれているだろうか。
夜の7時。
私は両親に「クラスのみんなと花火に行ってくるね」と
伝え、家を出た。 今回はいつもの制服ではない。
私は少し迷った末に、お気に入りの白いのワンピースに
薄めのカーディガンを選んで着ていた。
普段、学校では地味な制服に身を包み、
なるべく目立たないように一歩引いている私。
私服でみんなの前に出るのは、
なんだか自分の素の部分を見せるようで、
少しだけ気恥ずかしかった。
指定された公園に近づくと、
すでに集まっているクラスメイトたちの
賑やかな声が聞こえてきた。
「あ、あなたの下の名前ちゃん! こっちこっちー!」
私を見つけた女の子たちが、大きく手を振ってくれた。
公園の街灯の下、集まったみんなの姿を見て、
私は新鮮な驚きに目を見張った。
「ねえ、そのワンピースすごく可愛い!」
「いつも制服だから、新鮮だねー」
学校ではジャージや制服姿しか見ないクラスメイトたちが、
それぞれ思い思いの私服に身を包んでいる。
カジュアルなTシャツ姿の男子や、
少し背伸びをしたお洒落なブラウスを着た女子。
いつもは見慣れているはずの教室の顔ぶれが、
私服というだけでまるで違う場所で出会った
特別な人たちのように見えて、
あちこちで感嘆の声やお喋りが弾んでいた。
「おーい、みんな集まったか?って、おい陸!
お前本当に来やがったな!絶対来ないと思ってたわ!」
佐藤くんの大きな声に反応して、私はハッと振り返った。
少し遅れて公園の入り口に現れたのは、
白いシンプルなTシャツに少しスリムなズボンを合わせた、
ラフな私服姿の陸くんだった。
いつもは乱暴に捲り上げているワイシャツの袖がない分、
彼の細くて引き締まった腕が露わになっていて、
なんだかドキッとしてしまう。
陸くんは相変わらずぶっきらぼうに髪をかきむしりながら、
騒ぐ男子たちの輪に入っていく。
でも、彼の視線が、
ふっと男子たちの肩越しに私の方へと向けられた。
目が合った、その瞬間。
陸くんは一瞬だけ目を見開いて、
私のワンピース姿をじっと見つめた。
それからすぐに、何かを誤魔化すようにぷいっと顔を
背けてしまった。彼の耳のあたりが、
街灯の光の中でも分かるくらい、
ほんのりと赤くなっている。
「陸、私服かっこいいじゃん!いつもと雰囲気違うねー」
クラスの女子たちにからかわれながらも、
陸くんは少しずつ私の方へと近づいてきた。
みんながそれぞれ持ってきた花火の袋を広げたり、
夏休みの思い出話でお喋りに花を咲かせたりしている
喧騒の中、陸くんは自然な動作で私の隣にすっと立った。
私が少し不安になって自分の裾を小さく掴むと、
陸くんは慌てたように首を振った。
学校の理科室でもない、二人きりの夜道でもない。
たくさんのクラスメイトたちのお喋りの声が響く中で、
私たちはほんの少しだけ声を潜めて、
お互いの見慣れない私服姿に胸をときめかせていた。
「よし!全員揃ったみたいだし、そろそろ花火始めるぞー!
誰かライター持ってる奴いる?」
佐藤くんの号令で、クラスのみんなが一斉に動き出す。
夏休みが終わる三日前。
少し寂しくて、でも最高に特別な夜の第二幕が、
今まさに上がろうとしていた。














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。