「人間と関わると弱くなる」
その言葉を葛葉は幼い頃からよく聞かされていた。 別に葛葉が貴族だったからではない。吸血鬼全員の共通の認識だからだ。
実際、人間界に降りて数年過ごし、帰ってきたものは皆、窶れ、隈ができ、吸血鬼のエネルギー源である人間の血液を飲まなくなり、死んで行った。
昔の葛葉はその訳が分からなかった。 何か人間界に強い人間でもいて、ソイツにやられてしまったのか、とでも思っていた。
だが、叶と出逢ってからその意味がようやく分かった。
「葛葉?」
「、ぉあ?」
そうだった。叶ん家でゲームしてたんだった。
「眠そうだねぇ。もう寝る?」
「んー、飯食って寝るわ。」
「はいはい。ウーバーでピザ頼んだから直ぐ食べれるよ。」
「有能じゃんオマエ」
吸血鬼は別に飯を食わなくたって生きていける。 血を飲むことでエネルギーを補えるからだ。 だけど叶と出逢ってから人間の血を飲むのは辞めた。 ライバーになって、人間と仲良くなって、更に血を飲む気は無くなっていった。 代わりに人間と同じ食事をとる事でエネルギーを補っている。
だが、全てのエネルギーを補う事が出来なくて、年々魔力が減っていっている。 別に歳をとって弱くなっている訳では無い。寧ろ葛葉自身は吸血鬼にとってはまだまだ若い。 ならば何故魔力が減っていっているのか。
簡単な話だ。 常に擬態をする為に魔力を使い続けて居るからだ。
人間界にいる為には擬態が必要だ。 特に葛葉は吸血鬼の中でも高貴な血族であるため、吸血鬼の特徴だけでなく、所謂オーラのようなものがハッキリとしている。
ライバーの中にはでびでび・でびるのように擬態をしていない者も少なからず居る。 だが、葛葉は擬態をする事を選んだ。 それも叶の影響だ。
「お、VΔLZがオフコラボしてる。」
「俺らも配信付けりゃ良かったか」
「かもね。明日やる?」
「しゃーねぇ、やってやるかぁ・・・」
「じゃツイートしとくね。あ、いや今ポストか」
「青い鳥の時代が抜けてねぇw」
下らない話、何気ない話、中身のない話、媚びへつらうことのない会話相手、平和な日常。
全部、人間界に居なければ叶わない日常。
「そういえば葛葉。最初に僕達が出会った時に追ってた奴ら、どうなったの?全員死んだ?」
「・・・いや、何人か逃げた。 魔界に1度逃げられた後、ポータルを使って何処かに消えたって報告があった。・・・まぁ、あれだけ魔力が減ってたのなら暫く悪さはしねぇだろ。」
「暫く・・・ってどれくらい?」
「まぁ、あと200年くらいか?」
あの後、呪術師達の目撃情報が魔界の北部の大陸であって、そのあとポータルを開いた反応があったと報告されていた。
「まぁ、どうせ俺らにはもう関係ねぇよ。 リーダーも殺したし、大半は殺したからあの時程強い集団じゃ無くなってる。」
「それはそっか。」
だが、もし。
もしアイツらがまたこの人間界を襲うとなると、どうなるのか。
少なからず、混乱し、何人もの犠牲者が出るだろう。甘く見積っても50人、いや、もっと。
あの時リーダーの呪術師を殺せて良かったと何度も思う。
椅子に座って、ピザを食べようと口を開いた時。
微細だが、僅かに魔力を感じた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。