色は匂えど 散りぬるを_いろはにほへと ちりぬるを
香りよく美しく咲く花もやがていつか散ってしまうように、世の中は無情である。という意味
いろは歌の一部。
いつも通りに授業を受けていた、ある夏の日のことである。
担任の教師が教室へと入ってきて、私を呼んだ。
なにかやらかしてしまったかと考えながら教室を出て、何も言わずに担任の後ろを追いかけ空き教室に入る。
時計の針が進む音とセミの鳴き声が、やたらとうるさかった。
祖母に車で連れていかれた病院では、両親がベッドに横たわっていた。
酸素マスクを付けて、色々なコードに繋がって、その横で機会が赤やら緑やらに光っていて、私はそれを妙に落ち着いて眺めている。
間もなくして、両親は星となった。
今朝は元気に笑っていた両親は、ただの塊へと成り下がっていた。
ああ、悲しいなと思った。同時に、こんなものか、と思った。
命あるものは皆いつか死ぬ。それが、今日だっただけなのだ。
じゃあ、諦めなくては。
そういうものなら、仕方がない。
悲しんで何になる。
それが命のない死人に届くか?死人は蘇るか?違うだろう。
悲しみなんてものは、行き場のない感情をぶつける為のただの自己満足な八つ当たりにすぎない。
それならば、さっさと諦めてしまった方がいい。
仕方のないものだったと、これが人生なのだと、諦めてさっさと前を向いた方がずっと建設的だ。
葬式は、厳かに滞りなく行われた。
皆が嘆いている。どうしてだと悲しんでいる。
それなのに涙一つ流さないなんて、薄情な娘がいたものだ。
なんだか責められているような気がして、私はただただ、葬式が終わるのを待っていた。
泣けないよ、私は。
命の重さなんてもの、私には分からない。
分からないからあの日あそこから飛び降りて、分からないまま、ただ惰性で日々を生きている。
この二週目の人生は、何のために与えられて、何のために生きているのか。
考えても考えても分からなかったから、やっぱり諦めることにした。
燃やされた両親だった塊たちを見て何を思ったのかも、結局私には分からなかった。
なんだかいたたまれなくなって、逃げるように歩き出した。
私は前を向く。前を向かないと歩けないから。
諦めて、なかったことにして、前を向いて、そうして生きる。
二週目の人生は、きっと贖罪の人生だ。
途中で諦めて投げ捨てた人生を生きろと、何の意味が無くても生きろと、辛いことがあっても生き続けろと、きっとそういう事なのだろう。
私は神なぞ信じていないが、神がいたならきっとそう言うに違いない。
だから父さん母さん。
贖罪が終わって、もしアナタ達と同じところに行けたなら。
声を上げるほど、泣けますようにと願っている。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!