パッチの声は震えている。
いむくんと同じように、
彼女も齧りつくようにスマホを見つめていた。
困惑している僕の顔に、
いむくんは静かにガラケーを近づける。
荒い画素数のガラケーの画面には、
こんな言葉が表示されていた。
『いらない子は誰ですか? 投票してください。
味田レイコ 城野モクハ 瀬繹マイカ 花夢初兎 華夢仏』
いむくんは
と、
僕の肩をさすりながら言葉を続けた。
ビッチは、
キョロキョロとみんなの顔色を窺っている。
とパッチは口をつぐむ。
投票するしかない、
誰かを敵に売るしかない。
そんな事を口に出せるはずがないのだ。
先程と同じように画面の端ではカウントダウンが始まっている。
残り時間は十秒を切っていた。
僕は急いでスマホを取り出して、
画面を起動させる。
できることなら「ねぇ、誰を選んだらいい?」って、
いむくんに聞きたい。
リッチ・ビッチ・パッチ。
正直なところ、
誰もそこまで好きじゃない。
もうこうなったらあの手しかない...、
物凄い罪悪感を覚えながら、
僕は名前をタップした。
すぐさま、
投票結果が画面に表示される。
『投票が完了しました。
三票獲得した花夢初兎が「いらないあの子」に選ばれました』
やっぱり僕か。
何となく分かっていたけれど、
こうやって死刑宣告を受けると心が打ち砕かれる。
目の奥が熱くなり、
ツンと鼻の奥が痛んだ。
泣くもんかと、
ギュッと手の甲を強くつねるも、
涙がにじみ出た。
と、
ビッチが吐き捨てる。
わざわざ言葉に出さなくても分かってるのに、
馬鹿正直すぎやろ。
無意識にハハハと乾いた笑いが口からでた。
思ってもいない言葉を平然と発している自分に戸惑ってしまう。
誰の顔も怖くて見られない。
どこに目を向けていいのか分からず僕は、
スマホに目線を移した。
するとそこには新たな情報が開示されていた。
『その他の投票結果は、
瀬繹マイカ 一票
城野モクハ 一票 でした』
画面を見たビッチが、
ギロリと僕を睨み付けた。
太くアイラインがひかれているせいか、
見得を切った歌舞伎役者みたいだ。
と、
思わず僕は首を横に振った。
言葉を制して会話に入ってきたのは、
いむくんだった。
彼は人差し指を伸ばして、
交互にリズムよく動かした、
その通りなのだ。
僕は選ぶことができなくて天の神様の言う通りと、
タッチする人を決めたのだ。
リッチが聞こえるか聞こえないかの小さな声で「なにそれ」と呟く。
僕と一切目を合わせてはくれず、
それが余計に怖かった。
いむくんに誰も言い返すものはいない。
彼は再び僕の手を握った。
それに倣って、
僕達は再び横一列に並んだ。
だが、
どこか握り合う手がぎこちない。
いむくんは天使の美声で、
飼育員の背中に向かって叫んだ。
くるりと体を反転させて、
飼育員達は手を繋ぎ合う。
「♪花夢さんが欲しい♪」
「♪飼育員Aが欲しい♪」
いむくんが両手を離して一歩前に出る。
同様に飼育員が歩みより、
彼の前に立った。
「「最初はグー...ジャンケンポン」」
二人は相手に叩きつけるように右手を前に突きだした。
いむくんはチョキ。
飼育員は...
パーだった。
いむくんの勝ちだ。
さすが、いむくん。
そう思ってガッツポーズするも、
リッチ達は俯いたままである。
さっきの投票で僕たちの関係には亀裂が入っていた。
もともと薄っぺらな関係だから、
崩壊するのもあっという間ってことだろう。
ヘラヘラと笑いながら飼育員Aが僕達の列に近づいてきた。
なんだか態度の悪い飼育員だ。
そう言ったのはリッチだった。
ビッチも「賛成」と頷いている。
反論しようとするパッチに、
リッチは釘をさすように声をあげる。
パッチは何も言えずに俯いてしまった。
どうやら、
というか確実に僕達はリッチ・ビッチを敵に回してしまったようである。
クラスのスタメン美少女とは思えない般若みたいな顔で二人は僕達を睨み付けている。
僕のこと「いらないあの子」に選んでること、
お忘れですか...?
飼育員Aは間に入ろうと、
いむくんと僕の手首を掴んだ。
いむくんと離れたくなくて、
力を込めて彼の手を握り続けたが、
飼育員はいとも簡単に僕達を引き離す。
そしてグローブみたいな大きな手で、
僕の右手を包み込んだ。
こんなやつに一秒たりとも触れていたくない。
ゾワリと体に鳥肌が立つ。
男の手を振りほどこうとするが、
びくともしない。
飼育員Aは、
一瞬緩めたかと思うと僕の指の間に、
自らの指を滑り込ませる。
いわゆる恋人繋ぎっていうやつだ。
人生初の恋人繋ぎが男で、
しかもコイツだなんて、
虚しすぎる。
飼育員Aの陰に隠れていた、
いむくんが身を乗り出した。
だってキモいんやもん。
飼育員Aのマスクから笑い声がこぼれた。
飼育員Aはグイッと顔を近づけた。
顔面までの距離、約五センチ。
今にも顔と顔がくっつきそう。
僕は渾身の力を振り絞って、
のけ反る。
その時だった。
飼育員Aの耳たぶを、
僕の眼はしっかりと捉えた。
そこには無数のピアスの穴。
この耳たぶに、
僕は見覚えがあった。
27th story
end.













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。