倒理side
暗闇の中から押し上げられるように浮上した意識で重い瞼を何とか開ける。
その瞬間霞む目に飛び込んできたのは氷雨で。俺の名を大声で呼ぶ声が頭に突き刺さり激痛が走る。
目元が赤いのは…泣いてた…?
唐突に突きつけられた、とてつもない愛の証は、あまりの小っ恥ずかしさで目を合わせられなくなるには十分だった。
投げやりにしか返答できないしなんなら返事してないし。でも長年連れ添った仲である彼なら、この感情も汲み取ってくれるだろうか。
「…いろいろ、対処、ありがとう。」
「…あまり素直すぎると逆に怖いね。」
「…うっせ」
一気に気が抜けたのか、再び睡魔が襲ってくる。
「倒理、まだ疲れてるだろうから遠慮なく休んでね。ちゃんとここにいるから。」
別に居なくてもいい、なんて強がることも出来ず、優しく目を覆う氷雨の暖かい手を感じながらそのまま意識を落とした。
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氷雨side
数日の点滴と休養である程度体調が戻った倒理は、早く帰りたいと駄々を捏ねて強引に3日後には事務所に戻っていた。
それでもまだ血糖が安定してなかったり疲れが取り切れてなかったり自律神経が乱れまくってたりで要安静を言い渡されている。
手続き諸々を済ませ、捕まえておいたタクシーに乗り込み事務所に戻った。
そしてドアを開け中に入った瞬間
「ッ、ひ、さめ」
僕のスーツの袖をか弱い力で引かれた。
「!?倒理、どうかした?しんどい?」
できるだけ落ち着けるように、優しく問いかける
「…はぁッ、」
そのまま立っていられなくなり、胸元をギュッと抑えながら床にしゃがみこんでしまった。
動悸か?床に手を着いて体制を保ってるとこから目眩もあるだろうと推測する。
「倒理、ゆっくり呼吸して。もたれかかっていいから。」
腰に手を回してこちら側に体重を預けさせる。
何回りも細くなってしまった腰は、今にも折れてしまいそうで心が痛む。
あの6日間でここまで弱ってしまうとは、それほどの無理をしていたのに止められなかった事を心底後悔する。
…いや、これは6日じゃ無いな。もっと前から、体の負担になる生活をしてたから、こんな、
「っヒュ、ゴホッゴホッ、かひゅっ」
「倒理、ゆっくり呼吸して。ゆっくりでいいよ、吐いて、吸って、出来てるよ、大丈夫だから」
「…ふ…ぅ、はぁ、ゴホッ、」
「うん、出来てるよ、治まった?」
コクッと涙目を浮かべて頷く。触れる体はほんのり暖かくて、なのに指先は氷のように冷たい。
「…倒理、熱あるじゃん。やっぱまだ入院してた方が良かったんじゃ…」
「…いや、いい。あんなところにいても、やすめない」
「…絶対無理しないでよ。すぐ言ってね?少しでもしんどくなったら。」
病院嫌いな訳では無いはずだが、多分職業柄周りの人間をすぐ観察する癖があるためなかなか落ち着けないんだろう。
仕方ない。僕が付きっきりで看病してやる。嫌がられても絶対離れないから。
…だからお願いだからもう無理なんてしないで。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。