長野の朝は冷える。
全国的に比べると標高も高いから、
もともと気温が上がりにくいし、風も強くて冷たい。
聞き込み…いや、取り調べに近いか。
学校にアポを取ろうとしたら明日の朝にしてくれって
ぶっきらぼうな口調で言われてしまったから、
こんな朝早くに準備しているんだけど。
やっぱりいつものルーティンが崩れると
何かしらハプニングが起きる。
まぁ…タイムトラベルできるから
別に問題はないんだけど。
朝飛ぶのはちょっと嫌だな…でも、仕方ない。
あれは母の形見だ。無くしたり壊したりするのは
私が記憶喪失にでもなってからにして欲しい。
キッチンに向かって、少し早足で進む。
屈んで、下の引き出しにあるアイスピックを
取り出した。
____タイムトラベルする条件。
第一に、意識があること。
第二に、タイムトラベルする時の出来事を
鮮明に思い浮かべること。
第三に、自分がタイムトラベルしたいと思うこと。
アイスピックは不必要では、問われそうだけど
実は最も必要なものだ。
第三の条件…
タイムトラベルをしたいと思って出来た時…それは
全て命の危険を感じた時だった。
それも、血が溢れるくらいの重症…
手に電撃のような痛みが走る。
それと同時にエレベーターに乗っているかのような
浮遊感がした。
______時間を飛んでいく。
それは他人からしたらおとぎ話のようで、
私にとっては熱々のコーヒーみたいなもの。
日常にありふれている、プラスとマイナスが
掛け合わさったような出来事だ。
光が強まっていく。
もう少し…..あと少しだ。
最初に聴覚。
次に視覚と触覚。
最後に。
自分の記憶と意思が出てくる。
車にあるデジタル時計は16:49となっている。
.…近隣住民の書き込みが終わった時だ。
車のサイドミラーで自分の耳を確認する。
この時はまだイヤリングはある。大丈夫だ。
問題は恐らくこの後…
甲高い、人が嫌いそうな音が響いている。
車に乗っている私たちにまでしっかりと聞こえている。
…魔の5月が始まるのか。
そう思った矢先、目の前に飛び込んできたのは
ほぼ半壊している黒いセダンだった。
この後の展開を知っている私は
由依さんの手を引っ張って怪我を最もしにくい
体制にさせた。
その1秒後、黒いセダンは信号待ちの
私たちが乗っている線に突っ込んできた。
幸いにも私たちの車は無事だったけど、
2台前の車は窓が割れるくらいの衝撃を受けていた。
イヤリングをそっと外し、
カラスが描かれたケースに嵌めるようにして入れた。
これで大丈夫。
薬物中毒の男に殴られそうになった由依さんを
庇ったら転んだ、なんてことになっても平気だ。
タイムトラベルはそれなりの代償もある。
けど…
私の思う" 守りたい人 " は守れる。
きっと私は誰かからは悪魔に見えて、誰かからには
職務を全うしている警察官に見えるんだろう。
平和でいなくちゃならない、なんて思っちゃいない。
けど…
これでまた一つ、素敵な笑顔を守れた気がする。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。