第7話

7.静寂するトレーネ
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2025/03/25 11:00 更新

「次、露木さん」

 ガロさんに指名され、口ごもりつつ話しはじめた。
「子供の頃、消防車が見たくて、空き家が火事だって嘘の通報して、楽しんでたの。そうしたら、同じ頃にどこかでホントに火事になって、消防車が間に合わなくて……」

「きみの嘘をつくクセは、そこから始まってるのか」
そう言われて、露木さんは、え、と目をみはった。
「きみがジャーナリストっていうのは嘘だ。自己紹介のとおり、小さな町工場の事務をしてる」
「なんで...」
「言っただろう。きみたちのことは調べたって」
「なに!?じゃあ、さっきの連続殺人の話も嘘なのか」
奈良崎さんに責めるような眼差しを受けた露木さんは
気まずい顔をしながら言い返した。
「あれは知り合いのジャーナリストから聞いたのよ。別にいいでしょ、ちょっとくらいカッコつけたって。私はただ、バカみたいに毎日コツコツ、同じことの繰り返しでストレス溜まってるのよ!嘘くらいつかせてよ」
「……バカみたい?」
久能さんは思わず訊き返した。
「そうよ、元カレに言われたのよ。同じ職場だったのに、ある日突然『こんな小さな世界でおまえらみたいにつまんねえ連中と、いつまでもバカみたいにやってられねえ』って、そう言って大陸に行って、ヒッチハイクで何ヶ月も旅して、楽しそうな写真まで送りつけてきて。どうせ私はいつまでもバカみたいでみっともないわよ!」
「大陸……あの、よく分からないんですけど、その元カレは、筏でもつくって大陸に行ったんですか?」
筏……。
「はぁ!?そんなわけないでしょ。飛行機に決ってんじゃない」
「え、じゃあ、飛行機を飛ばしたのは誰だと思ってるんだろう」
「え?」
「その毎日コツコツ時間を守って働いてる人がいるから、バスも飛行機も動くんです」
「大陸に行ってからも、そういうことをしてくれる人たちがいるからこそ生活できたんです。あなたもそのひとりで、それ、何が悲しいですか」
励ましでも慰めでもない、正論...。
「その元カレが山奥で完全自給自足をやってる人でないかぎり、話を聞く必要はキッパリないです」
「……まあ、そういう僕は、親のスネかじりですけどね」

「そうね……そんなこと、考えたことなかった」
私も...考えたことなかった。
「しかし、嘘はいかんだろ」
奈良崎さんが言ったとき、表で
激しい犬の吠え声が聞こえた。
ガロさんとオトヤさんは急いで部屋を出ていく。

「え……な、なに?」
「もしかして警察...?」
露木さんがハッと気づいてドアに駆け寄り
ノブを回す。
「ねえ、鍵が開いてる!」
ふたりとも慌てて鍵をかけてなかったんだ。
「逃げるなら、今がチャンスかも」
「よし、行くぞ」
奈良崎さんが大股でドアに向かう。
その時、柏さんが叫んだ。
「犬堂さーん!みんなが逃げますよー!」
ダッと駆けだすと、ドアの前に両手を広げて
立ち塞がった。
「みんなが逃げようとしてます!早く来てください!」
「ちょ、ちょっと!あんたなに言ってんの!?」
露木さんが止めようとしたが、時すでに遅し。
騒ぎを聞きつけ、ガロさんとオトヤさんは
バタバタと戻ってきた。
「静かにしろ!」
「おい!あんたもあいつらの仲間だったのか!?」
奈良崎さんが怒気を露わにすると
柏さんは怯えるように後ずさった。
「別に、その人は仲間じゃない」
だよね。
じゃないと、わざわざ運転手さんの名前は聞かない。
共犯なら名前くらい知っているはずだから。
「なにやってんだ、戻れオラ!」

「あんた、いったいどういうつもりなんだ」
怒りが収まらない奈良崎さんが追及すると
柏さんはボソリと答えた。
「...だって、まだマスコミが来てないじゃないですか」
「え?」
「テレビの中継で、人質が誰なのか報道されて、その家族が呼ばれて、話を聞かないと」
「はあ!?それがなんなんだよ!」
「そしたら、心配してもらえるじゃないですか!夫にも、お義母様にも、親戚にも、みんなに心配してもらえる.....」
心配されたくて...?
皆わけがわからず、柏さんを見つめる。
そんな中、翔さんが言った。
「ふだんは、心配してもらえないんですか」
「……私、離婚して家を出ていけと言われてるんです。子供ができないから」
露木さんは「はあ?」と声をあげた。
「義理の母にはずっと無視されてて、夫も何も言ってくれません。だから心配してほしかったんです!」
そう言うと、柏さんは顔を覆った。
「.....私が犯した最大の罪は、子供を堕ろしたことです。夫との子供です。まだ結婚前で体裁が悪いからって、お義母様に言われてしかたなく……でもそのあと、なかなか妊娠しなくて...」
「ちょっと、なにそれ、酷い」
それは、お嫁さんを都合よく子供を産む道具と
勘違いしているのではないか。
「だから私、どうしても子供が欲しくて、がんばって不妊治療のクリニックに通っているんです。そこで、体外受精なら可能性があると言われました。なのに、お義母様にも親戚の人たちにも、それは神の領域だ
、そんな不自然なことをするなと反対されてさはまって.......そんな不自然なことですか?いけないことですか?」
とうとう柏さんは泣き出してしまった。
「...人は自然の生き物なので、人がすることはすべて自然の範疇だと思います」
久能さんが口を開く。
「たとえばですが、人に一からはちみつを作れと言っても、たぶん無理でしょう」
「はちみつ...?」
「植物のように光合成で酸素を作ろうとしても、まだ同じようにはいかない。そんな神の領域みたいなことを、彼らは当たり前にやってるんです。だとしたら、人間がする発明や、革新的技術を生み出すこともまた自然の範疇だと言えるのではないでしょうか。だからあなたも、できることでしたいことは、なんでもしたらいいと僕は思う」
柏さんは再び涙を流した。
でもそれは、先程とは違う
温かいものだった。
「ただ柏さん、苦しいことを薄めるために、より悪いことを望むのはマズイです。それがどうなっていくのか……僕は知ってるので」
久能さんを窺うように見てから
柏さんに翔さんは言った。
「’’どう怒っていいかわからない人は、何が正しいのかもわからない,,って誰かが言ってたな。だから俺は、せいぜい怒ろうと思います。どうぞ、あなたも」
柏さんは泣きながら頭を下げた。
生きて帰れたらとことん闘って
自分の居場所を死守しようと、そう決意して。


いつも読んでくださり、ありがとうございます!
今回はだいぶ長めになってしまいました💦
そろそろ、チャプターのタイトル考えるのが
大変になってきた...

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主人公ちゃんが主に、整くんとライカさんと
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