第6話

右手。
10
2026/02/27 12:06 更新
《お願い》
今後、自分の感情が溢れ出した時に、この日記をつけること。

ポジティブなことは記さないこと。
例)まぁ、どうにかなるでしょ!など。

日付を必ず記すこと。

これは自分が死ぬまで誰にも見せないこと。

1日に何個記しても構わない。

《ご案内》
重い話が苦手ならばすぐに引き返すこと。

重い話に耐性があるならば引き返さないこと。

感情出口から外に出ること。


2027年○月○日
右手が、ないです。
ないというより、失くなったという方が正しいかもしれません。事故で右手が飛んで行きました。すぐそばの交通りょうの多い道路で幼い兄弟が飛び出しちゃったので引きづり戻そうとしたらトラックが来て
あとは言わなくてもわかってくれますよね。
もちろん兄弟2人は


高校生なのに、ヒラガナばっかなんて。変なかんじですね。まあ 仕方ないですよ。利き手じゃない手で書いてるんですから。でも…このペン、不思議ですね。
利き手じゃないのに、今までよりうんと書きやすい。

ビョウインに入院してから2週間。
早くこの質素な個室から出たい。
心までこの部屋のように真っ白になって
何も感じなくなりそうなんです。それは嫌です。
感情がなくなったら、兄弟2人のことも忘れてしまいそうで…2人が確かに生きていたことを忘れて、自分だけ生きる。そんなの許されない気がする。
いや、許されない。
両親は仕事で忙しいのにも関わらず、2日に一度、この部屋に来てくれる。でも、子供2人も失ったショックからなのか、しゃべることはほとんどない。
自分からも、話しかけない。白い部屋に重いちんもく。
怪我人にとって一番、いやな時間だと思う。

本当は

誰かと話したいんだ

今、こうやって

思っていることを

誰かに知って欲しいんだ

だけど

兄弟達を殺めてしまったと同じようなツミを持つ僕に

そんなことが

許されるのか?

きっと許されない

大切な両親の心も傷つけてしまった

愛していたむじゃきな兄弟も

僕のせいで

僕のせいで

僕に

生きる価値なんてあるか?

このビョウインで

チリョウしてもらう価値なんてあるか?

右うでの先を見たら前まで思い通りに動いていた手はどこにも見当たらない。白い包帯でぐるぐる巻きにされたうでだけ。
でも左手はある。こうして文字を書ける。思い通りに動かせる。

いっそのこと、両うでなくなって欲しい。ここにはいない兄弟の数と一緒だから。
せめて そうやって 罪ほろぼしをしたい。

前まで、僕は健こうだった。びょう気にかかりやすかったけれど、体に欠かんはなかった。心にも欠かんは特になかった。優しい両親がいて、かわいい兄弟がいて。

幸せだった。

でも今回のことで、
体にも
心にも
欠かんが出来た。

どんなに優秀なお医者さまでも治せないような欠かん。
どんな薬を使っても治せないような欠かん。
どうなに時間を割いてもいやせないような傷。
全ての傷が元通りになるわけじゃないんだよ。

体の傷は見たらわかるから、みんなが気に掛ける。
だけど、心の傷はその人の顔とかを見ただけじゃわからない。その人が言ってくれないと真実はわからない。
だから
「あの人、何か悩んでるんじゃ…」
「最近元気ないな…」
って思っても、じっさいにその人がどう思っているかわからないから結局誰も何も言えないんだ。
言っても「大丈夫」って言われるのが大半だから、モヤモヤしても「そっか」っていって引くほかない。
僕はそういうやつだった。
「大丈夫」って答える側だった。
知ってほしいくせして
相手に「変なやつ」って思われるのが怖くて
抱えてるものを必死に隠して
必死にごまかして
無理に笑ってきた。

でも、きっと、僕だけじゃなくて
誰しも、そうなんじゃないかな。

この前、友達がお見舞いに来てくれた時に言ってた。
「最近ぁ、変なノートが目撃されてるんだって」
「そのノート、いきなり現れて次の日にはどっか行っちゃうんだってさぁ」
「で、ノートを見た人は全員、それに日記を書くんだってよ。書いた人たち、ノートに日記を書いたことは覚えてんのに内容は覚えてないんだってよ!
で、で!そいつら、全員が学校でいじめられてたり、不登校だったりしてるやつなのに、ノートに出会った後、突然『学校、行く』っていうんだってよ!変なノートだろ?」


あぁ、もしそのノートがこれなら。
僕に生きる希望を与えて。
天国にいる兄弟の分も、自分の分も
生かさせてください。

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