第140話

終章
643
2025/06/09 13:00 更新








________ 呪力のぶつかり合いによって

起こった奔流が、私の右腕を抉った 。







爆発に紛れ、押し合いに負けた私は覚束無い足取りで

高専から撤退しようとする 。








その時心を占めていたのは、

"感動"ただ一つだった 。







あれだけの潜在能力(ポテンシャル)があれば、

いずれ私の理想が叶うのも夢ではない 。






そんな希望も半ば、

目の前に現れた存在によって光は潰えた 。







しかし皮肉にも、私の瞳孔には

輝かんばかりの蒼が映っている 。







老いを知らないその見た目に反して、

その蒼はこの世の醜さの全てを映し出していた 。







家族達の安否を確認したのち、

ようやっと心が弛緩する 。







私は悟と違い、大切な者を死地に

入れるような真似はしない 。







私は優しいんだ 。

自分の生徒を私の元へ送り込むような君と違ってね 。








でもどちらにせよ、

私は未来ある呪術師を殺さない 。







それは、私の大義に反することだからだ 。







そういった旨を伝えれば、

悟は平然とした顔で、そこは私を信用したと答えた 。







信用なんて脆いもの 。

決別したあの日、疾うに崩れたと思っていたばかりに 。







何故か、高専時代の蒼い日々が脳裏を駆け巡る 。

それはまるで、走馬灯のように 。







曲がりなりにも、私は悟達との日々を愛していた 。







五条悟
五条悟
... 何か言い残すことはあるか

夏油傑
夏油傑
... 誰がなんと言おうと、非術師(猿共)は嫌いだ

夏油傑
夏油傑
でも別に、高専の連中まで
憎かったわけじゃない







私は、高専のやり方が気に入らなかっただけだ 。

決して悟達を憎んでいる訳ではなかった 。







大勢多数の為に仲間の命がすり減ることこそが、

堪らなく憎かった 。







だから、私は ...







夏油傑
夏油傑
ただこの世界では

夏油傑
夏油傑
私は心の底から笑えなかった







呪術という概念がなかったら、

私はただただ純粋に笑えたのだろう 。







何も考えずに悟と笑い合い、ふざけ合って、

また笑い合う 。








きっと、そんな日々に羨望を持っていたのだと思う 。







呪術のある世界で笑えなくとも、

私は悟達との世界では、心の底から笑えていた 。







五条悟
五条悟
傑、







悟は膝を曲げて屈み、私に目線を合わせる 。







蒼空を掴んでそのまま入れたような瞳を見て、

思い出したのは、全ての始まりの色 。







私達の、蒼い蒼い色 。







五条悟
五条悟
___________







己の瞳孔が開いていくのを感じる 。

まるで死の間際に、彼の姿を目に焼き付けるかのように 。







そして湧き上がるは、穢れ一つない、無垢な笑い 。







夏油傑
夏油傑
はっ

夏油傑
夏油傑
最期くらい、呪いの言葉を吐けよ







_________ 微かな衝撃の後、

光のベールに包まれて、体の痛みが無くなっていく 。







その温もりは、まるで春の陽だまりの様で 。

君の優しさに触れた時の、あの感覚が鮮明に蘇る。







最期(こんな時)まで、夢見るのは君なのか 。







薄れゆく意識の中で、

過去の未練を持った自身を嘲笑する 。








やはり私は、君を...諦めきれなかった 。







愛しているよ、あなた 。








この言葉がどれほど小さく、

どれほど私の想いを表現するに足り得ないか

分かっているが、それでも伝えたい。







君という光は、出会った瞬間から

私の心の奥を焼き続けた 。








でも...私は 。

沢山憎んだ 。沢山殺した 。







だから手を伸ばそうと、

もう届くことのない、優しい春光。







届くことがなかろうが、私は君を愛している 。









一切の穢れもない、君を 。








それはこの人生で変えることの出来ない事実なんだ 。









だからどうか、忘れないで 。

私がいたこと、私が君を愛したこと 。









君の幸せを、心から願っていたこと 。








君に出会えて、本当に良かった 。








魂が廻って、別の人間になったとして...

それでも私はまた、どうしようもなく

君という人に惹かれるんだろう。







君の事は、この魂が忘れないよ 。








そして、願うことならもう一度 。







________________

夏油傑
夏油傑
あなた
You
なあに、傑くん


________________











_________ あの蒼く煌めく春の中で、

君に想いを伝えたい 。









プリ小説オーディオドラマ