海人side
夜のハナミズキを見に行った数週間後くらいから、彼女はよく発作を起こすようになった
少し前までは1週間に数回ほどだったけど、最近はスパンが短くなり2~3日に1回くらいのペースで来るようになってしまった
発作の度に彼女の背中をさすり、こめかみに滲む汗を拭った
こんなことしかしてあげられない自分が情けなくて、つくづく嫌になる
彼女が発作疲れで眠ったあと、布団をかけて病室を出た
スタッフステーションに声を掛け、向かうは病院に併設されている図書館
ここは入院患者と医療従事者だけが使える施設で、広くて綺麗でお気に入り
棚を適当に物色していると、文庫本サイズの1冊に目が留まった
“ 外科医になるには ”
真っ先に彼女が思い浮かんだ
僕はその本を手に取り、窓際のソファーに座って読み始めた
文面を読んでいる間も彼女のことで頭がいっぱいで、もしかしたら彼女の病気が治るかもしれないという希望みたいなものが、同時に込み上げてくる気がした
聞き覚えのある声で顔を上げると、見慣れた先生
あれからどのくらい経ったんだろうか、辺りは夕日に照らされオレンジ色に染まっていた
僕は本をポケットに滑らせ、彼女が待つ病棟へと向かった
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。