<甘露寺side>
目を開けたら、自分の屋敷の一室にいた。
過去を見ている間に移動させられたのか、任務で赴いていたところではなかった。
まあ、ギリギリ鬼を倒すことができていたから、ここに来させられても大丈夫なんだけど。
というか、わざわざ帰ってくる時間が省けたから逆に感謝しないと(?)。
それにしても、と私は思いながら縁側に出る。
空を見上げると、紺碧の空一面に星が散りばめられていて、キラキラと輝いていた。
少しだけ雲があるけれど、とても綺麗な夜空だと、私は思う。
ポツリ、と思ったことが口をついて出た。
あんな過去。
そう思ってしまうのも、仕方がないと許して欲しい。
私と一緒にいる時の伊黒さんは、いつも少しだけ頬を染めて楽しそうに目を細める。
私には優しく接してくれる。
自意識過剰になっちゃうくらい、勘違いしそうになるくらい。
伊黒さんがあんなに素敵な人だから、伊黒さんの家族もとっても素敵な人なんだろうと、思ってた。
でもそれはやっぱり私の想像で、願望で、勝手なイメージだった。
『鬼が殺した人々の金品を奪って生計を立てる』。
伊黒さんの家は、そんな生活をしてきた一族だった。
少し、、、いや、すごく驚いた。
でも、、、そんな光景を見ている伊黒さんが、過去の幼い伊黒さんが、とても一族の人達を嫌悪していたから。
何より、そんなことを正しいと考えている人達の間で育っても歪まずに伊黒さんが私の隣にいたから。
だから私は、驚きはしたけれど、軽蔑したり幻滅したりはしなかった。
できることなら、手を伸ばして、幼い伊黒さんと今の伊黒さんを一緒に抱き締めたかった。
でもそれは叶わないから、私は動きかけた腕をギュッともう片方の腕で押さえ込んだ。
あの、過去を見ている時の伊黒さんの顔。
あれは、一族を嫌悪して誰も信じられなくなり、過去の自分を恨み、そして、何かに怯えていた。
伊黒さんはあんまり人を信じてはくれないけれど、でもやっぱり、嫌われるのは嫌だろう。
誰だってそうだと思う。
好き好んで周りの人みんなから嫌われたい、なんて人は余程の変わり者だと思う、失礼だけど!
だから私は、伊黒さんのあの怯えた色が浮かぶ表情は、これを見たみんなに嫌われるんじゃないかという怯えからきたものだと思ってる。
そのことを縁側で月を眺めながら再確認していると、ふと、伊黒さんの顔が頭をよぎった。
私に付き合って、好きでもないハイカラな甘味処で、少し居心地悪そうにしていた伊黒さん。
破れてしまったのを直して縫い目だらけになった私の靴下を見て、新しいものを少し恥ずかしげにくれた伊黒さん。
任務帰りにバッタリ会って、一緒に食事処に行って私が食べ終わるのを待っていてくれた伊黒さん。
私の記憶の中の伊黒さんはどれも、とても優しい顔をしている。
それを思い出す度に、私の胸の奥がキュンとして、暖かくなるんだ。
私はこの感情の名前を知っている。
鬼殺隊として鬼と戦っていても、いちばん身近にあるものだから。
鬼殺隊に入隊するキッカケになってくれた感情だから。
私は、綺麗に畳んで置いていた羽織を引っつかみ、羽織ながら外へ駆け出た。
無性に、伊黒さんに会いたくなった。
伊黒さんを、過去の伊黒さんと一緒に、抱きしめたかった。
そして、、、まだこの気持ちは伝えなくても。
ただただ、少なくとも私は伊黒さんの味方だよと伝えてあげたかった。
きっと他の柱達だって伊黒さんを軽蔑したりなんてしていないよ、と。
だから私は、伊黒さんのお屋敷に向かって走り出した。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。